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整形外科領域での栄養療法

この記事の執筆者

医療法人社団二柚会 大友外科整形外科

目次
    整形外科は運動器を構成するすべての組織、つまり骨、軟骨、筋、腱、神経などの疾病・外傷を対象としています。そしてこれらの組織は常に代謝をしていて日々生まれ変わっています。怪我をした場合、患者さんは早く怪我を治したいと願います。しかし、同じ治療をしていても、しっかり治る方とそうじゃない方がいたり、治るスピードが違ったりします。では、その違いはどこにあるのでしょうか。それを考えたときに役に立つのが栄養療法の知識になります。骨、腱の主な構成成分はコラーゲンですが、その生成にビタミンCと鉄が関与しています。骨折や腱鞘炎の治療にそれらのビタミン、ミネラルを補うことは治療上とても重要になります。怪我をしにくい体づくり、怪我を早く治すための整形外科領域での栄養療法についてお話しします。

    腱や骨、筋肉、神経などの運動器のトラブルを治療するのが整形外科医の仕事です。これらの運動器は私たちの心身を構成する組織であり、日々代謝をしています。運動器は体を動かせばその動きに順応するために代謝が活発になり、骨の強度が増したり、筋肉量が増えたり、俊敏性も上がって来る一方で、体を使わなければその逆が起こります。腱鞘炎になったり、骨折をしても治るのは、腱も骨も代謝によって新しく生まれ変われるからです。

    冒頭で述べた運動器トラブルのうち、今日は腱のトラブルとその治療についてお話しさせていただきます。

    代表的な腱のトラブルには幾つかあります。一つ目は、ドゥ・ケルバン病です。手関節に起こる腱鞘炎で、授乳中のお母さんによく起こります。二つ目は、ばね指です。指を曲げると引っ掛かりがあり、痛みがあります。三つ目は、足底腱膜炎です。起床時に足をつくと踵が痛くなります。これらの疼痛部位を超音波検査で観察してみると、腱が健側と比べて倍以上に腫脹している様子がわかります(図1)。

    これらの治療には、鎮痛剤の服用、湿布、注射が行われますが、痛みは慢性化することもあります。これらが治りにくくなる背景に、実は栄養素の過不足が関係しているのです。

    腱の主な構成成分はコラーゲンになります。コラーゲンの生合成には、アミノ酸、ビタミンC、鉄が関わっています。その栄養が不足すれば、コラーゲンがうまく作れません。また、コラーゲンは糖化反応を受けやすいことがわかっています。糖化反応は、温度によってタンパク質に糖がくっついて、タンパク質の立体構造を変えてしまい、別物にしてしまう反応です。糖化を受けた、コラーゲンそのものが弱くなります。腱がなぜ図1のように腫脹するのかというと、壊れたコラーゲンが、栄養不足または糖化反応のために修復できないためだと考えられます。

    授乳しているお母さんたちは、妊娠中に胎盤を通して胎児に鉄を奪われるため、鉄欠乏症になっています。そのためコラーゲンがうまく作れずに、腱鞘炎になり、なかなか改善しません。また、糖質ばかり好む高齢者はコラーゲンが糖化反応を起こしています。糖化反応を起こしたコラーゲンは正常の代謝ができなくなり、修復が難しくなります。高齢者のばね指を手術したことがありますが、本来白くてみずみずしい腱ですが、手術した時に見た高齢者のばね指の腱は黄ばんでパサついていました。糖化反応は、腱の見た目も変えてしまうのです。

    実際にばね指の40代の女性に、糖質制限とタンパク質摂取を指導し、ビタミンCと鉄のサプリメントを処方したことで、症状が消失しました。具体的には、コラーゲンの生合成に必要なビタミンCは1日2,000mg必要だと言われています。

    腱鞘炎になったら、糖質の過剰摂取はないか、タンパク質、ビタミンC、鉄の摂取不足はないか、セルフチェックをして、食事、栄養摂取を見直してみてはいかがでしょうか。

    以上、整形外科の栄養療法についてお伝えいたしました。

    引用:日本医事新報社/足底腱膜炎(足底筋膜炎)の病因と診断・治療の原況は?

    図1https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=11301

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