(写真1)国際オーソモレキュラー医学会ニュースサービス編集長のリチャード・チェン医師
ビタミンDの驚くべき健康効果と最適な摂取法:最新の科学的知見をもとに

ビタミンDは、私たちの健康にとって極めて重要な栄養素です。これまでは主に骨の健康を維持するためのビタミンとして知られていましたが、近年の研究により、免疫機能の強化、心血管疾患のリスク低減、がん予防、認知機能の維持、精神的健康の向上、さらには寿命の延長にも関与していることが明らかになっています。しかしながら、現在の公的なガイドラインでは、これらの全身的な効果が十分に考慮されておらず、特にビタミンDの推奨摂取量については科学的な根拠に基づいた見直しが求められています。
本記事では、国際オーソモレキュラー医学会ニュースサービス編集長(OMNS)のリチャード・チェン博士(写真)が、昨年9月に開催されたビタミンD国際シンポジウムの提言をまとめた「科学的根拠に基づくビタミンDの健康効果と最適な摂取ガイドライン」をもとにした最新の研究成果と、ビタミンDの健康効果と最適な摂取方法について解説します。
チェン博士は昨年2月に逝去した前編集長のアンドリュー・ソウル先生の後継として編集長に就任しました。彼はコロナのパンデミックのときに、中国に高濃度ビタミンC点滴療法を導入するプロジェクトを共同で行った盟友です。2022年には来日し、日本オーソモレキュラー医学会主催の国際栄養医学シンポジウムでも招待講演をしています。
ビタミンDの健康効果

ビタミンDのさまざまな健康効果を挙げました。
【1】免疫機能の強化と感染症リスクの低減
ビタミンDは、免疫細胞の活性化に関与し、感染症への抵抗力を高める重要な役割を果たしています。特に、マクロファージやT細胞などの免疫細胞は、適切なビタミンDレベルが維持されていることで最大限の機能を発揮し、ウイルスや細菌に対する防御能力を向上させます。
さらに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック時には、ビタミンDの十分な摂取が感染リスクを低減し、重症化を防ぐ可能性があることが多くの研究で示されました。たとえば、英国の研究では、血中のビタミンD濃度が低い人は、重症化リスクが有意に高いことが報告されています。
【2】自己免疫疾患のリスク低減
ビタミンDは単に免疫を強化するだけでなく、過剰な炎症反応を抑える働きがあります。自己免疫疾患は、免疫系が誤って自身の細胞や組織を攻撃することで発症しますが、ビタミンDが十分にあることでこの異常な免疫反応を制御し、リスクを低減します。多発性硬化症や1型糖尿病、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患は、ビタミンD不足と深く関係していることがわかっており、特に北欧などの高緯度地域では、日照時間の短さによるビタミンD不足が自己免疫疾患の発症率を高めている可能性が指摘されています。
【3】がん予防と腫瘍の成長抑制
近年、ビタミンDのがん予防効果に関する研究が進められており、乳がん、大腸がん、前立腺がんなどの発生率が血中のビタミンD濃度と関連していることが明らかになっています。たとえば、血中の25(OH)D濃度が50 ng/mL以上の人は、それ以下の人に比べてがんの発生率が低いことが観察されています。
また、ビタミンDは腫瘍細胞の増殖を抑制し、アポトーシス(細胞の自然死)を促進することで、がん細胞の拡大を防ぐ作用があります。特に、大腸がんに関しては、ビタミンDの適切な補給がリスクを30%以上低減することが報告されています。
【4】心血管疾患の予防と血圧の調整
心血管系の健康維持にもビタミンDは大きな役割を果たしています。ビタミンDが不足すると、高血圧や動脈硬化のリスクが高まることが示唆されています。これは、ビタミンDが血管の柔軟性を維持し、血管内の炎症を抑える働きを持つためです。特に、高齢者や肥満の人では、ビタミンD不足が心血管疾患の主要なリスク因子となるため、定期的な血中濃度の測定と適切な補給が推奨されます。
【5】脳機能の維持と認知症予防
ビタミンDは神経伝達物質の調整に関与し、脳の健康を維持する上で重要な役割を果たします。最近の研究で、血中ビタミンD濃度が低い人は、アルツハイマー病やその他の認知症のリスクが高いことが示されています。また、うつ病や不安障害との関連も報告されており、特に冬季うつ(季節性情動障害)は、日照時間の減少によるビタミンD不足が原因の1つと考えられています。
【6】ビタミンDと出生前および母体の健康
ビタミンDは、胎児の発達と母体の健康に不可欠な栄養素です。妊娠中に適切なビタミンDレベルを維持することは健康的な出産につながり、妊娠高血圧症、妊娠糖尿病、早産のリスクを軽減することが示されています。さらに、胎児の脳の発達、免疫システムの形成、子どもの神経発達や免疫機能が強化されます。妊娠中の女性は、ビタミンDの適切な補給を心がけることが、母子双方にとって長期的な健康維持に寄与すると考えられる。
ビタミンDの最適な摂取方法
【1】日光浴によるビタミンD合成
紫外線(UVB)を浴びることで皮膚はビタミンDを合成します。しかし、都市部に住む人や日焼けを避ける人、高齢者は十分な日光を浴びる機会が少なく、慢性的なビタミンD不足に陥る可能性があります。適切な日光浴の時間は、地域や季節によって異なりますが、夏場であれば1日15〜30分程度、冬場はより長い時間が必要です。
【2】食事からの摂取
ビタミンDが多く含まれる食品には、以下のようなものがあります。
- 脂肪の多い魚(サーモン、マグロ、イワシ)
- 卵黄
- きのこ(特に日光に当てたもの)
- ビタミンD強化食品(牛乳、シリアル)
しかし、食事だけで十分なビタミンDを摂取するのは難しいため、サプリメントの併用が推奨されます。
【3】サプリメントの活用
チェン博士は、成人に対し1日5000IU(1250㎍)のビタミンDの摂取を推奨しています。この量は、血中25(OH)D濃度を50〜100 ng/mLに維持するのに適しており、長期的な健康維持に効果的です。
しかし、日本人の食事摂取基準(2020年版)では1日の摂取の目安量が、18歳以上の男女ともに8・5㎍(340IU)、耐用上限量が100㎍(4000IU)と設定されています。しかし、この摂取量では血中25(OH)D濃度を50 ng/mLに維持することは難しいと言えましょう。事実、慈恵医科大学の研究では98%の東京都民が血中正常値である30ng/mLを下回っていました。私もチェン先生が提唱するように1日4000〜5000IU(100〜125㎍)のサプリメントの摂取を推奨しますし、自らも1日5000IUを摂取しています。

(図1)慈恵医大の調査で、東京都民の98%のビタミンDが低下していた
ビタミンDの安全性
ビタミンDは脂溶性ビタミンであり、蓄積性があります。研究によると、ビタミンDは1日10000IUの長期間の摂取でも安全であり、血清濃度が100 ng/mLまでの範囲では重大な副作用は報告されていません。ビタミンDの過剰摂取による毒性は、通常、血清濃度が150ng/mLを超えるか、または1日40000IU以上の摂取を長期間続けた場合にのみ発生するといわれています。したがって、1日5000IU(125㎍)の摂取でも極めて安全であるといえます。個人のビタミンD補給に対する反応は、体重、基礎となるビタミンDレベル、年齢、遺伝的要因などによって異なる可能性がありますが、最適な摂取量を確保し、過剰なレベルを避けるためには、血清25(OH)Dレベルを定期に検査する必要があります。
おわりに
ビタミンDは骨の健康にとどまらず、免疫機能、心血管系、脳機能、がん予防など、多岐にわたる健康効果を持っています。しかし、日本人の多くはビタミンDの低下〜欠乏状態にあります。私たちはもっとビタミンDに関心を持ち、成人であれば毎日4000〜5000IUを摂取して、定期的に血中濃度をチェックすることにより、健康寿命を延ばし病気のリスクを低減することができます。
【参考文献】
- OMNS. 2024 International Virtual Vitamin D Forum & Expert Panel Discussion. Orthomol Med News Serv [Internet]. 2024 Sep 25;20(15). Available from: https://orthomolecular.org/resources/omns/v20n15.shtml
- Grant WB, Wimalawansa SJ, Pludowski P, Cheng RZ. Vitamin D: Evidence-Based Health Benefits and Recommendations for Population Guidelines. Nutrients. 2025 Jan;17(2):277.
- Cheng RZ. Understanding and Addressing Vitamin D Resistance: A Comprehensive Approach Integrating Genetic, Environmental, and Nutritional Factors. Orthomol Med News Serv [Internet]. 2024 Sep;20(13). Available from:
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