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ビタミンB1と健康「エネルギー産生、うつ病、がん、物忘れ」Vol.1

この記事の執筆者

法政大学 教授

医学博士。産業衛生専門医・指導医。社会医学系専門医・指導医。専門は予防医学、産業保健、分子整合栄養療法

ビタミンB1は糖代謝を介して細胞のエネルギー産生を支え、神経や心筋の働きに不可欠です。不足すると脚気や末梢神経障害、精神症状を呈し、うつ病と誤診されることもあります。アルコール多飲や精製穀類中心の食生活が主因で、豚肉や全粒穀物の摂取が予防に有効です。

ビタミンB1と脚気

ビタミンB1はとても大切なビタミンです。

ビタミンB1について知ると、いかにビタミンが生きて行く上で重要か、栄養をしっかり摂らなければいけないかがよくわかります。

これ1つが不足するだけで命に関わる状態になってしまうのですから。

ビタミンB1は水溶性ビタミンです。初めて発見されたビタミンとして知られています。

水に溶けやすいために、調理の際に失われてしまうことが多く、また吸収されにくいうえに、体外に排泄されやすいという特徴があります。このため、気をつけて摂取を心がけないと不足しやすく、欠乏症になりやすいのです。

特に肝機能障害、糖尿病などでビタミンB1をコカルボキシラーゼに変換する能力が低下している場合にはより多く摂取することが必要となります。

ビタミンB1は肉、豆類、全粒穀物、ナッツに多く含まれていますが、穀類を精製すると取り除かれてしまいます。

ビタミンB1不足といえば、脚気です。明治時代、脚気は結核とともに二大国民病と呼ばれていました。玄米を食べていた時代には、脚気はみられませんでしたが、精白米を食べるようになると、脚気が増えていきました。

また、ビタミンB1不足は酒飲みにおいてよく見られるものです。

ビタミンB1不足は心血管系、神経系、免疫系に影響を与えます。

日本で多くの死者を出していた脚気の原因を突き止めたのが、慈恵医科大学の創始者、高木兼寛です。海軍でも多くの病人が出ていたのですが、軍医を務めていた高木が脚気は栄養が原因であるとして、白米を麦飯に切り替え、タンパク質を多く摂取させたことにより、劇的に脚気にかかる人数が減りました。

当時はタンパク質不足が原因だと間違って解釈されていて、米ぬかに含まれているビタミンB1の欠乏症ということはまだわかっていませんでしたが、対応策としては麦飯で大丈夫だったわけです。

ビタミンB1欠乏の症状

ビタミンB1が不足すると、脚気の症状が出ます。

脚気の症状とは、食欲不振、過敏症、短期記憶の低下全身倦怠感、しびれやむくみ、動悸、息切れ、知覚異常(感覚の麻痺)などです。さらに進行すると手足の力が弱くなり、寝たきりとなって心不全で死亡します。

脳や神経にも障害が出ますので、中枢神経が侵されるとウェルニッケ・コルサコフ症候群が現れることもあります。これは眼の異常(眼振、眼筋麻痺による複視)、錯乱、運動失調などの歩行変化、健忘症です。

現代でも、偏った食事、コンビニ食、インスタント食品ばかり食べているような人が発症することがあります。

アルコールの飲み過ぎも原因の一つです。偏った栄養、利尿によるビタミンB1の喪失が影響します。

ビタミンB1不足は医師が現代社会において栄養不足の問題であることに気づかず、不調で病院を受診しても原因を見落とされてしまうことがあるのです。

ビタミンB1欠乏症の原因

1)摂取不足

白米、精製穀物を多く摂る、アルコール多飲など

2)吸収不良

栄養失調や胃バイパス手術など

3)損失の増大

下痢、つわり、利尿剤の使用、透析など

4)需要の増加

妊娠、授乳、甲状腺機能亢進症、糖質の大量摂取、リフィーディング症候群(注)など

(注)リフィーディング症候群とは、慢性的な栄養不良状態で高度の低栄養状態にある患者に急に過度の栄養補給を行うことにより発症する代謝合併症。心不全、不整脈、呼吸不全、意識障害、けいれん発作、四肢麻痺、運動失調、横紋筋融解、尿細管壊死、溶血性貧血、高血糖あるいは低血糖発作、敗血症、肝機能異常、消化管機能異常などの多彩な症状を示し、心停止などにより死亡することもある。

ビタミンB1は細胞におけるエネルギー産生に必要

ビタミンB1はクエン酸回路で糖質からエネルギーを取り出すために必要となる重要なビタミンです。

ブドウ糖がクエン酸回路に入る部分で、ピルビン酸からアセチルCoAに変わるときにビタミンB1が必要なのです。ピルビン酸脱水素酵素の活性をビタミンB1がコントロールしているのです。

このとき、ビタミンB1は、チアミンピロリン酸(コカルボキシラーゼ)になって作用をします。

ビタミンB1不足により、一番に起こるのはエネルギーの不足です。

疲れやすく、だるくなり、食欲不振、朝起きられなくなり、眠気や集中力の低下が起きて、学力低下したり、仕事でミスを連発したりします。

また、糖質を摂りすぎるとビタミンB1が大量に消費されて、欠乏症を起こします。

不足すると疲れがたまる機序としては、ピルビン酸が乳酸に変換されるため、細胞、組織に乳酸がたまって筋肉痛が起こったり、疲労がたまったりするのです。ビタミンB1不足によって、全身倦怠感、だるさなどが起こるのです。

免疫力の低下

腸の「パイエル板」というリンパ組織にある免疫細胞の維持にビタミンB1が関わっていることがわかっています。腸管において IgA 抗体を産生する細胞の前駆体はナイーブ B 細胞(注4)と呼ばれており、バイエル板にたくさん存在しています。ビタミンB1が不足するとパイエル板が小さくなって免疫力が低下するのです。

神経細胞の生成、働き

ビタミンB1不足により、神経伝達速度(神経の中を興奮が伝わる速さ)が遅くなり、すべての感覚が鈍くなります。

欠乏すると、中枢神経障害、末梢神経障害が起きます。

中枢神経障害としては、多彩な精神症状が出現します。認知症、健忘症、記憶力低下、意識障害、歩行障害など、そして子供であれば知能の低下が引き起こされます。

末梢神経障害としては、しびれ、知覚障害、自律神経失調症状(動悸、息切れなど)がおきます。

末梢神経障害を簡単に確認するには、膝蓋腱反射を確認する方法があります。

膝の下のくぼみをハンマーでたたいて足が反射的に跳ね上がるかどうかを見る検査です。

ビタミンB1不足によって起こる精神症状はうつ病と間違われる

脚気は栄養障害ですが、神経症状が出ると精神科にかかり、本当の原因を見過ごされてしまうことがあります。中には、うつ病と判断されて、延々と抗うつ薬を投与され、どんどんと悪化してしまうようなケースもあります。

ビタミンB1の不足なのですから、抗うつ薬では良くなるはずがありません。

私はビタミンBのサプリメント投与、またビタミンB群を含むビタミン点滴を行ったところ、びっくりするくらい元気になってしまった”偽うつ病患者”さんを経験したこともあります。

うつ病のような症状の患者さんには必ず食事内容を確認し、タンパク質、鉄、ビタミンB群、ビタミンCなどのサプリメントをお勧めしています。

だるい、元気がない、息切れ、動悸、しびれなどの症状が見られる場合には、まず食事を見直すとともに、ぜひご自分でこの膝蓋腱反射を確認してみてください。

精神科にかからなくても、”うつ状態”が治ることがたくさんあるのです。

※本記事は宮川路子先生のホームページ「宮川路子の水素栄養療法」にて掲載された「ビタミンB1と健康「エネルギー産生、うつ病、がん、物忘れ」」を、許可を得た上で転載しております。

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