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医薬品のオフラベル(適応外)使用を用いた、がんの代謝療法

この記事の執筆者

ごきげんクリニック浜田山

ビタミンC点滴療法や栄養療法のメッカとも言えるリオルダンクリニック(アメリカ)へ研修のため留学。留学中、米国抗加齢医学会の専門医試験に最年少で合格。また米国で開催される国際学会に多数出席し、世界の機能 ... [続きを見る]

以前まとめた記事『がんのホールマークにアプローチする治療こそ、究極のがん治療に』では、がんの代謝を標的とした治療の概要をご説明しました。

今回はこの医薬品のオフラベル使用を用いた「がんの代謝を標的とした治療」について、さらに詳しくご紹介していきたいと思います。この治療法は、アメリカや欧州を始めとする世界各国で注目を集め始めています。

私もこれこそが、がんの種類やステージに関係なく、がんの成長や転移する能力を弱め、ひいてはがんを克服する可能性を秘めた方法であると考えています。

がんの代謝療法とは?

がんの代謝療法について、簡単に復習していきましょう。

ほとんどのがん細胞の酸素や栄養素の需要、血管の新生、細胞が増殖する速度などが健康な細胞とは異なることが知られていますが、グルコースやコレステロール、タンパク質の利用を標的とした薬を使うことで、がん細胞の代謝異常に影響を与えることができる方法です。

この治療法の面白いところは、すでに市場にある薬(例えば抗生物質や高脂血症などに対する薬)を、 がんに対してオフラベル※1 で使用するところにあります。

現在開発されている新薬の多くは、がんの免疫システムに対するものですが、これらの新薬は開発に時間がかかり、加えて未知の副作用があり、おまけに高額になることが多いという傾向があります。一方、オフラベルであれば、低コストですでに安全性が広く確認されている薬を使用できます。

効果の面でも、最近では元々がん以外の病気に対して作られた薬が様々な抗がん作用を有することが広く認識されるようになっており、大規模な臨床研究が行われた薬も多くあります。



※1:医薬品の適応外使用のこと。

抗がん効果はあれど、使用が難しい「適応外処方薬」

例えば、糖尿病治療薬のメトホルミンと高コレステロール治療薬のアトルバスタチン(親油性スタチン)の抗がん効果は、過去数十年にわたる多くの論文で証明されています。これら「適応外処方薬」の抗がん効果は実に様々で、がん細胞の成長、増殖、アポトーシスおよび血管新生に関与する経路を調節したりします。

脳腫瘍の中でもっとも悪性のがんである膠芽腫でさえ、標準治療にメトホルミン、アトルバスタチン、メベンダゾール(寄生虫治療薬)、ドキシサイクリン(抗生物質)を追加することで、2年生存率を通常の28.7%から64%まで大幅に改善する結果が出ています(図1)。

<図1>


最近になってようやく、がんに対する適応外処方薬のプラセボ比較化試験が行われ始めているのですが、ここまでの道のりは決してスムーズとは言えないものでした。

というのも、いくらメトホルミンががん治療に有望だったとしても、これらの薬は特許が切れており、大規模なランダム比較化試験にかかる数億ドルを製薬会社が負担する経済的メリットがないためです。

また、非がん性の病気において医薬品の適応外処方は一般的ですが、適応処方時と比べて大きな責任が伴うため、がんに対する適応外処方に消極的になる臨床医の心境も理解できます。

がんの代謝療法において、世界を牽引するCOC

この治療法を世界に先駆けて行っているのは、イギリスのケアオンコロジークリニック(COC)です。COCは民間の医療機関ですが、アメリカやドバイ、オーストラリアなど世界中に提携病院・提携クリニックがあります。

現時点では残念ながらアジアで提携している医療機関はないのですが、実はCOCと提携する準備を進めていて、高濃度ビタミンCと一緒にこの方法も導入したいと考えています。

また、『How to Starve Cancer』(2018, Agenor Publishing)の著者のFacebookグループ、「Jane McLelland Off Label Drugs for Cancer(1) では、患者さん同士がご自身の代謝療法のプロトコルや体験談などを活発に共有されております。とても参考になり勇気付けられるので、是非一度ご覧いただくことをおすすめします。

代謝療法をより具体的に勉強する方法

ここで「自分でも代謝療法についてもう少し勉強したい」という方のために、具体的な方法をご紹介いたします。

まずは、一般的な病理検査やCTC検査などでご自身のがんの特徴を知ります。例えばグルコース(糖質)をメインの栄養にするがんであったとして、好気性解糖が亢進しているのか、酸化的リン酸化なのか、それともグルコーストランスポーター1(Glut1)が増えているのかといった具合です。

もちろん、がんの種類によって栄養にしやすいものの傾向があるので、それを参考にしても良いですが、ご自身の検査を行えたらさらに自信を持って治療が行えるでしょう。

一般的にはがんの栄養になりやすいものとしてグルコースが有名ですが、グルタミン(タンパク質)や脂肪酸(脂質)も無視できません。がんは1つの栄養素が利用できないとなると、すぐに変化して他の栄養素を利用し始めます。そうしてがんの耐性化が進むので、糖質、タンパク質、脂質、全て同時に対応することが大切です。

ここまできてご自身のがんの特徴がわかったら、それに対して1つずつ対応していきます。

<図2>

図2にあるように、例えば前立腺がんやメラノーマ、バーキットリンパ腫やGBMなどで脂肪酸酸化が亢進している場合には、ドキシサイクリンやミルドロネートでこの経路を阻害できます。また、Glut1受容体が細胞表面にあるタイプなら、スタチンやケルセチンが使えますし、膵臓がん・HER2陽性乳がん・トリプルネガティブ乳がんでアップレギュレートされがちなマクロピノサイトーシスが認められれば、クロムピコリネートといった具合です。

これら全てに対応したら、「使う薬剤やサプリメントの種類がとんでもなく多くなってしまうのでは?」と心配されるかもしれません。しかし、これらの薬剤や天然のサプリメントには多面的に作用する働きがあるので心配しないで下さい。

例えばベルベリンは、インスリン、酸化的リン酸化、ステロール調節末端結合タンパク質-1、グルタミン酸化的リン酸化、mTORの阻害を1剤で同時にカバーできます。

難しい医学用語がたくさん出てきて混乱されるかもしれませんが、どの経路がどのように働くか完全に理解していなくても大丈夫です。悲しい事実ですが多くの腫瘍内科医もよく知らないでしょう。

このマップを利用し、できるだけ多くのご自身の経路を阻害することで、がん幹細胞の栄養のパイプラインをブロックすることが重要です。





本記事は『統合医療でがんに克つVOL.141(2020年3月号)』にて掲載された「リオルダンクリニック通信10」を許可を得た上で一部調整したものです。





<参考ウェブサイト>

(1)https://www.facebook.com/groups/off.label.drugsforcancer/

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