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オーソモレキュラー医学ニュースサービスー日本語版

国際版編集主幹Andrew W. Saul, Ph.D. (USA)
日本語版監修柳澤 厚生(国際オーソモレキュラー医学会会長)
溝口 徹(みぞぐちクリニック)
姫野 友美(ひめのともみクリニック)
北原 健(日本オーソモレキュラー医学会理事)
翻訳協力Wismettacフーズ株式会社ナチュメディカ事業G

* 国際オーソモレキュラー医学会ニュース<日本語版>は自由に引用・配信ができます。引用の際は必ず引用元「国際オーソモレキュラー医学会ニュース」とURL(https://isom-japan.org/)を記載してください。

マルチビタミンと葉酸の使用による自閉症率の低下

目次
執筆者: Terry Vanderheyden, ND, RH

(OMNS、2018年1月15日) マルチビタミンや葉酸のサプリメントを摂っていた母親から生まれた子どもたちは、たとえ母親がこうしたサプリメントを妊娠前に摂っていた場合でも、自閉症になるリスクが60%低い [1]。母親がこうしたサプリメントを、妊娠する前は摂っていたが妊娠中はやめていた場合でも、このリスクは低くなる。

Dr. Stephen Z. Levineらの研究グループが行った症例対照コホート研究では、2003年1月1日から2007年12月31日までに生まれた45,300人の子どもを対象として、自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断を受けたことがあるか調査し、その後、ASDの発症率と、母親によるビタミンと葉酸のサプリメントの使用パターンとの比較を行った。注目すべきこととして、この調査に参加したイスラエル人女性たちは、かかりつけの医師からビタミン剤を処方されていた。

その結果は特筆すべきものであった。母親がマルチビタミンや葉酸のサプリメントを使用していたことによる、子どもにおけるASDのリスク低下率は、妊娠する前に(つまり9カ月の妊娠期間以外で)使用していたグループでは61%、妊娠中に使用していたグループでは73%だったのである!

Levineらによるこの研究は、ノルウェーの研究グループによる以前の研究結果を裏付けるものである。そのノルウェーのグループも、母親の葉酸補給によって、生まれた子におけるASDのリスクが低くなることを見いだしている [2]。このノルウェーの研究では、妊娠する4週前から妊娠後8週までという短期間しかこのビタミン(葉酸)を使用していなかった母親グループにて39%のリスク低下が見られている。

Levineらの研究グループは、「因果関係を推測することはできない」としながら、彼らが行った観察的な研究を用いることは、無作為化対照臨床試験(RCT)を行うよりも「実際的で倫理的」である、と結論付けている。たとえば、こうしたサプリメントを処方するグループと、プラセボを与えることによりサプリメントを与えないグループに女性を分けてRCTを行えば、非倫理的とみなされることになる。なぜなら、葉酸補給は、生まれてくる子どもに二分脊椎症をもたらす神経管欠損を防ぐことがすでに知られているからである [3]。

現在わかっていることとして、我々の祖先の遺伝子に突然変異が生じたことから、多くの人は特定の栄養素をもっと摂らなければならなくなった [4]。たとえば、すべての人間が食事からビタミンCを得なければならないのは、他のほとんどの哺乳類が自分でアスコルビン酸塩を生成するのに対し、人間をはじめとする霊長類はほとんど、アスコルビン酸塩を作る合成経路に遺伝子変異があるためである [5]。現在、自閉症が大発生していることについて、エピジェネティクス(後成遺伝学)によって説明できそうに見えるが [7]、こうした自閉症の異常発生の根底にも、同様に、遺伝子変異が関与している可能性はある [6]。

我々の遺伝子は不変であるが、その遺伝子発現が生じる生化学的な細胞環境を変えることによって、いかに遺伝子発現を調整できるか調べる学問がエピジェネティクスである [8,9]。つまり、突然変異や他の遺伝的な相違の発現もしくは抑制をもたらすことができるように、食事や栄養サプリメント、生活習慣という要因によって既存遺伝子の発現を調整することができる。葉酸などのビタミンや栄養素は、遺伝子を構成するDNAの塩基配列をメチル化する生化学的経路において重要である。このメチル化が、遺伝子発現によってDNAからタンパク質が合成される仕組みを変えられるのである。こうしたエピジェネティック(後成的)なメカニズムは永続するものではないが、次の世代までは受け継ぐことができる。

結論

私は自然療法の専門医として、幼児の自閉症は、とくに、診断後できるだけ早く治療を行った場合、実際に自然療法に好反応を示すのを見てきた。治療を待っている時間が長いほど、完全に回復する可能性は低くなるが、長年にわたっていても改善が見られるケースは多い。現代の食生活では栄養欠乏は珍しくなく、また、遺伝的な相違の理由で、人によっては、必須栄養素がもっと必要とされることがある。栄養療法は、果物と野菜を含む優れた食事と併せ、ビタミンとミネラルのサプリメント、ならびに植物薬を摂るものであり、そのどれも、自閉症児の回復には欠かせない。とくに役立つのは、葉酸やビオチンを含むビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、クルミ・亜麻の実・魚油に含まれるオメガ3系の必須脂肪酸、プロバイオティクス、および必須ミネラル(マグネシウムなど)のサプリメントを十分な用量で摂ることである [10,11]。結論として、自閉症を予防するためのコストは、自然の力をそっと後押しするものに過ぎない。

(Terry Vanderheydenは、カナダ国オンタリオ州バリーズ・ベイに住む自然療法の専門医である。)

参考文献

1. Levine SZ, Kodesh A, Viktorin A, Smith L, Uher R, Reichenberg A, and Sandin S. “Association of Maternal Use of Folic Acid and Multivitamin Supplements in the Periods Before and During Pregnancy With the Risk of Autism Spectrum Disorder in Offspring.(母親の妊娠前と妊娠中の各期間における葉酸およびマルチビタミンのサプリメント使用と、生まれた子における自閉症スペクトラム障害のリスクとの関連)” JAMA Psychiatry; Published online January 3, 2018. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2017.4050.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=29299606

2. Suren P, Roth C, Bresnahan M, et al. “Association between maternal use of folic acid supplements and risk of autism spectrum disorders in children.(母親による葉酸サプリメントの使用と、子どもにおける自閉症スペクトラム障害のリスクとの関連)” JAMA. 2013;309(6):570-577.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23403681

3. De Wals P, Tairou F, Van Allen MI, et al. “Reduction in neural-tube defects after folic acid fortification in Canada.(カナダにおける葉酸強化後の神経管欠損症の減少)” N Engl J Med. 2007;357(2): 135-142. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17625125

4. Williams RJ. Biochemical Individuality(生化学的個体性) McGraw-Hill; (1998) ISBN-13: 978-0879838935

5. Saul AW. Ascorbic Acid Vitamin C: What’s the Real Story?(アスコルビン酸としてのビタミンC:本当の話は?) http://orthomolecular.org/resources/omns/v09n27.shtml

6. Schmidt RJ, Hansen RL, Hartiala J et al. “Prenatal vitamins, one-carbon metabolism gene variants, and risk for autism.(妊婦用ビタミン剤、一炭素代謝の遺伝子変異体、および自閉症のリスク)” Epidemiology. 2011 Jul; 22(4): 476-485. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21610500

7. Miyake K, Hirasawa T, Koide T, and Kubota T. “Epigenetics in Autism and Other Neurodevelopmental Diseases.(自閉症などの神経発達疾患におけるエピジェネティクス)” 出典: Neurodegenerative Diseases(神経発達疾患), edited by Shamim Ahmad. Austin, Texas: Landes Bioscience and Springer Science+Business Media, 2012. Adv Exp Med Biol. 2012;724:91-8. doi: 10.1007/978-1-4614-0653-2_7 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22411236

8. Abdul QA, Yu BP, Chung HY, Jung HA, Choi JS. Epigenetic modifications of gene expression by lifestyle and environment(生活習慣および環境による遺伝子発現の後成的調整). Arch Pharm Res. 2017, 40:1219-1237. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=29043603

9. Friso S, Udali S, De Santis D, Choi SW. One-carbon metabolism and epigenetics(一炭素代謝とエピジェネティクス). Mol Aspects Med. 2017;54:28-36. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27876555

10. Case HS. Vitamins & Pregnancy: The Real Story: Your Orthomolecular Guide for Healthy Babies & Happy Moms(ビタミンと妊娠:本当の話:健康な赤ちゃんと幸せなお母さんのためのオーソモレキュラーガイド). Basic Health Pub. (2016) ISBN-13: 978-1591203131

11. Saul AW. Vitamins and Autism: The Real Story(ビタミンと自閉症:本当の話).
http://orthomolecular.org/resources/omns/v13n13.shtml