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オーソモレキュラー医学ニュースサービスー日本語版

国際版編集主幹Andrew W. Saul, Ph.D. (USA)
日本語版監修柳澤 厚生(国際オーソモレキュラー医学会会長)
溝口 徹(みぞぐちクリニック)
姫野 友美(ひめのともみクリニック)
北原 健(日本オーソモレキュラー医学会理事)
翻訳協力Wismettacフーズ株式会社ナチュメディカ事業G

* 国際オーソモレキュラー医学会ニュース<日本語版>は自由に引用・配信ができます。引用の際は必ず引用元「国際オーソモレキュラー医学会ニュース」とURL(https://isom-japan.org/)を記載してください。

ナイアシンとガンービタミンB3がDNAを守りその修復にも役立つ仕組みー

執筆: W. Todd Penberthy, PhDAndrew W. SaulRobert G. Smith, PhD

(OMNS、2021年1月23日)

 

個人のDNA配列は変えることができませんが、食事によって遺伝子の発現が改善されることはあります。高用量ナイアシン補給によってNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の濃度を上げることもその一つです。

DNA損傷を受けた細胞は、突然変異によって形質転換されがん細胞になることがよくあります。我々が持つ腫瘍抑制遺伝子は変異すると機能しなくなるため、細胞の増殖に歯止めがかからずがん化することがあります。健康な状態の場合、細胞がDNA損傷を受けると、損傷したDNAにポリADPリボース(PAR)が付加され、その細胞は分裂をストップします。損傷したDNAを修復できれば、その細胞は正常な分裂を続けることができます。DNA損傷があまりにも大きいと、その細胞はアポトーシスによって死にます。

極端にひどい急性のDNA損傷を受けた細胞は、壊死という抑制不能かつ厄介なプロセスによって死にます。これは隣接細胞に悪影響を及ぼし、場合によってはさらに大きな巻き添え被害をもたらします。PARというポリマーが形成されると、NADが激減することがあり、NADがなくなると細胞は1~2分以上生き続けられないので細胞死が生じます。

ナイアシン、PAR、サーチュイン

ポリADPリボース(PAR)はNADを前駆体とするポリマーであり、そのNADはビタミンB3(ナイアシン、ナイアシンアミド)からできています[1]。PARはとくに、DNAの損傷発生に反応して産生されます。こうした損傷は、がんの放射線治療、太陽光の紫外線、多くの化学療法、その他のDNA損傷性環境有害物質によって生じるものです。

DNA損傷がひどい場合、十分なビタミンB3(ナイアシンまたはナイアシンアミド)がなければNADが欠失し、アポトーシス(プログラムされた細胞死)や、もっとひどいDNA損傷の場合は壊死によって細胞が死ぬおそれがあります。PARP-1(ポリADPリボースポリメラーゼ-1)はこの酵素活性に関与している酵素であり、PARP1の阻害剤はこうした細胞死を防ぎます。それによって細胞は生き続けることができますが多大な犠牲を払います。

主要なナイアシン/ナイアシンアミド濃度応答経路は2つあり、ADPリボースポリメラーゼ-1とサーチュインを特徴とします。

DNA損傷修復、ゲノム安定性およびガン研究との関連では、PARP1のほうが多く研究されていますが、主要なもう一つのNADエピジェネティクス経路はサーチュインを伴うものです。ヒトには7種類のサーチュイン遺伝子があります。この遺伝子について最もよく知られているのは、それが寿命に果たす役割であり、動物界全体のみならず酵母にも見られます。

サーチュインを活性化する小分子の特定に焦点を合わせた研究は、これまでにも様々な種類の治療法ならびに長寿に特化したサプリメントの目的で数多く行われており、こうした分子で最もよく知られているのは、レスベラトロール、プテロスチルベン、ポリフェノール類です。

サーチュインは、染色体上でらせん状のヒストン構造物に巻き付いているDNAの高次構造から2-炭素分子を1つ除去すること(脱アセチル化)によってDNAに作用します。この活性は、カロリー制限にて見られるものと似ています。カロリー制限は唯一、すべての動物モデルで寿命を延ばす効果が見られている方法です。

サーチュインは自己の基質としてNADを利用して自己を活性化するため、単純にNAD濃度を高く保てばサーチュインの活性が高まります。十分な用量のナイアシン摂取によって、これは遂行可能です。

ナイアシン/ナイアシンアミドが役立つ理由

ビタミンB3ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の重要な分子前駆体です。長寿研究では、どんな道を辿ろうと、寿命や、生体エネルギー的要求が最も厳しいプロセス(筋肉と神経)、ならびにガンを含むあらゆる疾患に対する感受性をコントロールする上でのNADの重要性に行き着きます。

NADの前駆体がナイアシン/ナイアシンアミドです。

NADの前駆体には、ナイアシン(化学名はニコチン酸)、ナイアシンアミド(ニコチンアミド)、ニコチンアミドリボシド、ニコチンアミドモノヌクレオチドがあります。これらはすべてサプリメントとして市販されていますが、中でもナイアシンやナイアシンアミドは最も安価で歴史も古く、一番研究されている形態です。

ナイアシンやナイアシンアミドは、ビタミンB3の形態として最初に発見されました。米国では20世紀前半にペラグラ(ニコチン酸欠乏症)が地方病として流行し、1940年代に根絶されて以来、ナイアシンやナイアシンアミドを小麦粉に加える食品強化が行われています。

NAD

生物学の基礎講座で我々は、生体エネルギー論においてNADが果たす中心的役割について学びます。NADはニコチンアミド(またはナイアシンアミド)アデニンジヌクレオチドの略称です。その還元型であるNADHは、細胞のエネルギーを生み出すミトコンドリアに電圧勾配をもたらす作用があり、最終的には、NAD+に変換されることによってNADH 1個につきATP(アデノシン三リン酸)が3個できます。

一方、分子遺伝学の研究では、400以上の遺伝子の機能にNADが必要であることもわかっており、他のどんなビタミンもこの数には遠く及びません[2][3] 。また、NADはヒトのシトクロムP450と呼ばれる55の薬物代謝酵素のほとんどに関わっています。

このフェーズ1解毒酵素ファミリーについては、薬物代謝における役割が広く知られていますが、環境化学物質の解毒や、ステロイド、プロスタグランジン、その他一部のビタミンの代謝においても正常に機能します。NADに関する研究は目下継続中で複雑です。ここでは臨床的ながんの発生につながるNAD関連の細胞形質転換に注目します。

ナイアシン、がん、DNA、化学療法

がんの予防ならびに化学療法の副作用の予防におけるナイアシンの関わりはあまり認識されていませんが、数十年にわたる研究の結果、がん患者にはナイアシン欠乏がよく見られ、欠乏を解消するためがん患者はナイアシンの摂取量を増やす必要があることが確認されています[4]

NADは、突然変異から細胞DNAを守るとともに突然変異したがん細胞の生存を防ぐ予防剤として機能することが、研究によって一般的にわかっています。ナイアシンが欠乏すると、ゲノム安定性が低下すること、ならびに突然変異の可能性と突然変異したがん細胞が生存する可能性の両方が高まることにより、がん化が促進されます。

研究では、ナイアシンの欠乏によってDNA修復が遅れ、DNA鎖切断の蓄積、染色体転座、テロメアの短縮(老化の典型的な現象)が進むことにより、がん化が促進されることがわかっています。ラットのモデル実験によると、ゲノムの不安定性を示すこうした様相のほとんどは、推奨されるナイアシン濃度を保つことにより、すべて最小限に抑えられます[5] 。また、ナイアシン欠乏によって腫瘍抑制因子p53の値が増えます[6]。マウスでの実験によると、軽度のナイアシン欠乏が紫外線B波誘発性皮膚がんの発生率増加をもたらす可能性があります[7]

Kirklandはナイアシン欠乏とがんに関する研究を何十年にもわたって行い、「化学療法や過剰な太陽光というようなストレス要因にさらされている場合、超生理学的な高用量でのナイアシン摂取が有益となる可能性がある」と結論付けています[4]

基本的にすべてのがん患者が最初の診断時にナイアシン欠乏症と診断され、ほぼ半数は1日推奨摂取量のナイアシン補給を行っても欠乏症が治らないことが研究結果からわかっています[5]。こうしたことから、NAD前駆体の高用量補給(つまりナイアシンアミドを1日3回500 mgずつ摂ること)が強く推奨されます。十分な量を摂ることが、すべてのがん患者の健康に役立つと思われます。

ナイアシンと化学療法

がんの化学療法は、急速な分裂を続ける細胞のDNAを損傷することによって作用するものがほとんどです。ナイアシンの欠乏自体が貧血を引き起こすことは、がんのほとんどの化学療法と同じように、ラットでの実験でも見られています[7]。また、ナイアシンの欠乏により、突然変異誘発源による貧血の重症度も、がんの発生率も高くなります。

NADの生合成系酵素であるNAMT(NAMPTi)に標的を設定した化学療法が現在、臨床試験の段階にあります[8][9]。これまでに行われたNAMPTiの臨床試験で見られた用量制限毒性の症状はどれも、重度のナイアシン欠乏症、つまりペラグラに似たものでした。ペラグラは、1900~1920年に米国南部で10万を超える死者をもたらし、ナイアシンの発見を促した病です[9]。また、どのNAMPTi試験でも、腫瘍量の減少は見られていません。こうしたことから、有益ながん治療法としてNAMPTに標的を設定するというアイデアについては、NAMPTiの臨床試験結果による裏付けはありません。

アミノ酸であるグルタミンががんに果たす役割は変わっています。グルタミン依存性の腫瘍があるからです。グルタミンはNADへの生合成の最終段階で必要とされ、その場合の前駆体はナイアシンまたはトリプトファンであり、ナイアシンアミドではありません。

上記のような理由で、がん患者にはナイアシンアミドまたはナイアシンの補給がきわめて重要です。ナイアシン補給は遺伝毒性のある化学療法薬の副作用からがん患者の骨髄細胞を守る可能性があることを示した研究により、十分なナイアシン補給が有益な効果をもたらすことが証明されています。

がんの生体エネルギー論におけるNADの役割は莫大です。がん細胞は非常に高い割合で解糖を行うため、グルコースを必要とし健康な細胞を犠牲にして取り込みます。がんに関しては、NADの前駆体の経路に特徴的な有意性と相違があります。がんの生体エネルギーという観点では、ナイアシンアミドが最も望ましいと思われます。その概略は今後発行するOMNSでお伝えする予定ですが、上記のまとめと、これを考慮した着実で具体的な提言を以下に記載します。

まとめ

NADの前駆体であるビタミンB3(ナイアシン)の補給は、がんのリスクを下げる可能性があります。ほとんどすべてのがん患者にNADの欠乏が見られるのは、過剰増殖性細胞の被害というエネルギー流出要素による可能性が高いと思われます。一般に、化学療法はさらなるNAD欠乏を引き起こします。

特許権を受けられる全く新しい化学療法開発手法としてNADの生合成経路を標的にする具体的な取組みと検討が行われていますが、これまでの結果は全く有望なものでも格別なものでもなく、用量制限毒性は致命的なNAD欠乏症であるペラグラのものと類似しています。NADの前駆体を用いてPARP1経路と(最近では)サーチュイン経路を介したエピジェネティクスを改善することに照準を合わせた数十年にわたる研究の結果、超生理学的用量でのナイアシン摂取は、ゲノムの完全性を維持し、突然変異を防ぎ、形質転換したがん細胞のたちの悪い生存と増殖の予防に役立つことがわかっています。

要するに、ナイアシンはがんと転移を防ぐのです。NADの研究は複雑であるとともに、やりがいが大きく、がんに対処するためにはどのNAD前駆体が最も良いのか、我々はまだ学ぶべきことがたくさんあります。NADの前駆体の高用量補給には研究による強力な裏付けがあり、その方法として、ナイアシン摂取を100~200 mgという低用量から始め、フラッシュ(紅潮)に慣れてから、1日3回×500 mg(合計1,500 mg)という用量まで増やします。

ただし、がんの治療中ならナイアシンアミドという形態のほうが良いかもしれません。ナイアシンアミドはNADの生合成にてグルタミンに依存することがなく、がんの治療ではグルタミンの制限が役立つからです。すべてのがん患者の健康を守る高い有益性が見込まれるものとして、私たちはこうした方法を推奨します。

 

まとめ:

  1. NADの欠乏には、がんを伴う突然変異誘発のリスク増加との関連が見られており、それを防ぐための最善策はおそらく、毎日ナイアシンを摂ることです。1日3回100~200 mgずつ摂ることから始め、フラッシュに慣れたら1日3回×500~1,000 mgという用量まで増やします。
  2. がん患者は、化学療法によってNAD欠乏が生じることが多いので、ナイアシンアミド(1日3×500 mg)を用いて補給するのが最善策です。

食事との関連、ナイアシンアミドを用いたグルタミン制限、そしてグルコース制限とケトン食(ケトジェニックダイエット)の実践が推奨されます[10,11]

参考文献
  1. ナイアシンの形態にはこの他にも、ニコチンアミドリボシド、ニコチンアミドモノヌクレオチドなどがあります。この記事ではナイアシン/ナイアシンアミドに焦点を合わせています。

  2. Penberthy WT, Kirkland JB. Niacin [Internet]. In: Present Knowledge in Nutrition.(「栄養学における現在の知識」- ナイアシン[インターネット]) John Wiley & Sons, Ltd, [2021年1月1日引用] ; 293-306. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/9781119946045.ch19

  3. Penberthy WT (2021) Vitamin B1, B2, & B3 Functions (ビタミンB1・B2・B3の機能) [2021年1月1日引用]  https://www.phrs-usa.com/vitamin-b1-b2-b3-functions

  4. Kirkland JB. (2012) Niacin requirements for genomic stability.(ゲノム安定性に必要なナイアシン) Mutation Research, 733: 14-20. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22138132

  5. Spronck JC, Nickerson JL, Kirkland JB. (2007) Niacin deficiency alters p53 expression and impairs etoposide-induced cell cycle arrest and apoptosis in rat bone marrow cells.(ラットの骨髄細胞にてナイアシン欠乏はp53の発現に変化をもたらしエトポシド誘発性の細胞周期停止とアポトーシスを阻害) Nutrition and Cancer, 57: 88-99. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17516866

  6. Koshland DE. (1993) Molecule of the year.(今年最も注目された分子) Science, 262: 1953. 
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8266084/

  7. Boyonoski AC, Gallacher LM, ApSimon MM, et al. (1999) Niacin deficiency increases the sensitivity of rats to the short and long term effects of ethylnitrosourea treatment.(ナイアシン欠乏はエチルニトロソ尿素治療の短期的・長期的影響に対するラットの感受性を高める) Molecular and Cellular Biochemistry, 193: 83-87. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10331642

  8. Galli U, Colombo G, Travelli C, Tron GC, Genazzani AA, Grolla AA. (2020) Recent Advances in NAMPT Inhibitors: A Novel Immunotherapic Strategy.(NAMPT阻害剤における最近の進歩:新しい免疫療法戦略) Frontiers in Pharmacology, 11:656. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32477131

  9. Heske CM. (2019) Beyond Energy Metabolism: Exploiting the Additional Roles of NAMPT for Cancer Therapy.(エネルギー代謝を超えて:がん治療に役立つNAMPTのさらなる役割を活かす) Frontiers in Oncology, 9:1514. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32010616

  10. Mukherjee P, Augur ZM, Li M, et al. (2019) Therapeutic benefit of combining calorie-restricted ketogenic diet and glutamine targeting in late-stage experimental glioblastoma.(末期の実験膠芽腫におけるカロリー制限ケトン食とグルタミン標的設定の組合せによる治療有益性) Communications Biology, 2:200. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31149644
  1. Seyfried TN, Mukherjee P, Iyikesici MS, et al. (2020) Consideration of Ketogenic Metabolic Therapy as a Complementary or Alternative Approach for Managing Breast Cancer.(乳がんに対処するための補完的または代替的な方法としてのケトジェニック代謝療法の考察) Frontiers in Nutrition, 7:21. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32219096