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オーソモレキュラー医学ニュースサービスー日本語版

国際版編集主幹Andrew W. Saul, Ph.D. (USA)
日本語版監修柳澤 厚生(国際オーソモレキュラー医学会会長)
溝口 徹(みぞぐちクリニック)
姫野 友美(ひめのともみクリニック)
北原 健(日本オーソモレキュラー医学会理事)
翻訳協力Wismettacフーズ株式会社ナチュメディカ事業G

* 国際オーソモレキュラー医学会ニュース<日本語版>は自由に引用・配信ができます。引用の際は必ず引用元「国際オーソモレキュラー医学会ニュース」とURL(https://isom-japan.org/)を記載してください。

オメガ3系脂肪酸と循環器疾患

Damien Downing, MBBS, MSB と Robert G. Smith, PhDによる論評

(OMNS、2018年8月6日) コクラン・システマティック・レビュー・データベース(「コクラン・レビュー」)から、つい最近、自己のレビュー「循環器疾患の一次・二次予防に対するオメガ3系脂肪酸の効果」[1]の改訂版が出された。それに対する我々の見解をここに述べる。

有名なフードライターのMichael Pollan氏によれば、栄養と食事についてすべきことは「Eat food, not too much, mostly plants (食べ過ぎず、主に植物を摂る)」という 7語にまとめることができる。これは、人にとって何が一番か、地球にとって何が一番か、その両方をまとめた言葉となっている。

エビデンス(科学的根拠、証拠)にもとづく医療(EBM)の悪い点については、「Evidence is a waste of data; systematic reviews are palimpsests (エビデンスはデータの浪費、系統的レビューは一度書いたものを消して書き直した羊皮紙-パリンプセスト)」という10語でまとめてもよいだろう。それをナイフとして使えば、この研究をすぐに分析することができる。

このレビューには間違いが多くある。とあるメディアの広報部門は、そのレビューの「効果を示す明白な証拠がない」ことを、「効果がないことの証拠」と粉飾して伝えている。すなわち、「証拠の欠如」が「欠如の証拠」となっていた。そしてマスコミは喜んでこれを取り上げ、同調していた。

系統的レビューはパリンプセスト

パリンプセストとは何か。動物の皮である羊皮紙に書いていた昔、羊皮紙は捨てずに再利用していた。これを例えに、原文に上書きしたものをパリンプセストと呼ぶ。系統的レビューは、列挙された全論文の結論に自己の新しいバージョンの事実を上書きできる。これは、選択と除外という方法によって行われる。例えば、2005年に発表されたメタ分析で、ビタミンEサプリメントは死亡リスクの有意な増加をもたらすと結論付けた論文があった[2]。この研究グループは、死亡数が10に満たない研究は除外していた - 本来なら死亡数が他より少ないという結果こそ注目すべきだった。彼らはその理由を、「小規模試験の多くは死亡データを収集していないと考える」と述べているが、我々はそうは思わない。彼らは自分たちが欲しい否定的な結果になるよう、それをトリックとして使った。元からある数多の研究の結果を上書きするために。

オメガ3系脂肪酸の研究でも全く同じことをし、要求水準を吊り上げている研究グループがいる。その研究の死亡数の閾値は50である。それより少なければ、他よりバイアスが大きいという理由で、分析から除外される。「死亡数が少ない研究のほうがオメガ3系脂肪酸による効果が高いことがわかってしまうので除外した」と言いながら(我々の解釈)、どうやったら真顔でいられるのか我々にはわらかない。

少なくとも、このレビューの初版が出た2004年には、こうしたことが起きていた[3]。しかし、今回は8回目の改訂、どんな研究を対象に含めたか、またはどんな研究を除外したか、あえて詳述するようなことはもうしていない。だから、もし除外方針を変更していたなら知らせただろう、と推測するしかない。
不思議なのは、そうすることが彼らに許されていることである。栄養学研究者のDr. Steve Hickeyによると、系統的レビューでは、対象に含まれた研究におけるバイアスの管理手段は一般的にあるが、実際のレビューとその研究グループにおけるバイアスの管理手段はない[4,5]。(このレビューのような)コクラン・レビューが100あっても、十分な盲検化の例は1つも見られない。どれもパリンプセストの可能性がある。我々は、それらが偽りであると知っているかは問題でない。我々が実際知っているのは、それを信じることはできない、ということである。このコクラン・レビューも信じることはできない。2004年から物事は変わっていないのである。

エビデンスはデータの浪費

証拠(エビデンス)とは、人が有罪か無罪か判定するために弁護士や裁判所が使うもので、いかにそれが誤った方向に進むかもしれないことを、誰もが知っている。これは二進法の○か×かである。しかし、人の裁判では、証拠はすべてその人自身と、その罪を犯したか否かに関するものである。EBMの場合、エビデンスはすべて母集団に関するもので、個人のものではない。もし医師が、「この治療法が効く確率は3分の1」と説明するには、大規模な複数の研究や系統的なレビューに基づく発言でなければならない。しかし、その母集団のプロファイルに自分が当てはまらない可能性が大きいため、自分にとって意味であるか理解できない。前述のSteve Hickeyによると、こうしたことの根底にある統計的誤謬は、男女同数の研究で平均を「睾丸を1つ、卵巣を1つ持っている」と言うようなものである。それが母集団の平均なのだから。

前述のレビューを更新した研究グループは、関連があると見なした約2,100本の論文を抽出した。次に、その9割の論文をレビューの対象から外した。除外の理由は様々で、正当な理由もあれば、そうでないものもあった。こんなことをするよりも、論文のデータ・マイニングを行い、すべての論文の下位グループと下位効果に関する有用な情報を探すほうが賢明である。オメガ3系脂肪酸の効果が人によって異なることに特定の理由はあるか? 魚は嫌いとか魚アレルギーでオメガ3系脂肪酸が欠乏している、ということも考えらえる。しかし、レビューのシステムでは、そうしたことを認めず、(母集団に関する)全体的な結論を強く求める。これは、途方もないデータの浪費である。

こうしたシステムは、レビューの全体的な調査結果にも狂いを生じ、実際にはバイアスがかかる。たとえば、最終分析まで残ったほとんどの下位グループで、(錠剤、食品をはじめ)どのような形態であれオメガ3系脂肪酸を摂っていたことによる若干のリスク低下が見られた。これに対し、補助食品(オメガ3系脂肪酸を添加したマーガリンのようなものと我々は理解している)からオメガ3系脂肪酸を摂っていたグループでは、死亡リスクが4.3倍高くなっていたのである。ここでの問題は、オメガ3系脂肪酸の効果について、薬剤のように単独で調べることはできないことである。個人の健康に影響を及ぼす他の食事成分すべてが重要である。健康に良くない原料を多く含んでいる加工食品や加工飲料は、少量のビタミンやミネラル、オメガ3系脂肪酸を加えても、健康に良いものにはならない。ビタミンをはじめとする栄養素が少量含まれていても、加工食品の多くは、大量の砂糖や塩、そして保存料・着色料など食品以外の有害な原料が含まれているため、実際には健康に良くないのである。

なぜ脂質はそれほど重要なのか

問題の一端は、脂質が実にややこしく、患者も、医者も、また科学者でも、脂質を十分理解している人は多くない。魚油などの食品に含まれているα‐リノレン酸(ALA)と、オメガ3系脂肪酸サプリメントの形でのみ高濃度で摂ることができるEPAやDHAというような抽出油との、代謝と影響における違いを認識するためには、脂質代謝について十分理解する必要がある。そうした濃度の抽出油は、事実上、自然界には見られず、魚油のサプリメントが開発されるまで、誰も(実際にはどの哺乳類も)本当に大量のDHAにさらされたことはなかった[6]。こうした事実を見落とすと、新鮮な魚を食べた場合と、オメガ3系脂肪酸入りのマーガリンを使うだけの違いを見落としてしまう。

食事で、緑の葉野菜、色とりどりの野菜、果物をたっぶり摂り、卵、魚、獣肉は適量に抑え、サプリメントで十分な量の必須栄養素(ビタミンとミネラル)を摂れば、循環器疾患のリスク低下に効果があることは、様々な研究から明らかである。(亜麻仁油、クルミ、魚に含まれる)オメガ3系脂肪酸と、(キャノーラ、大豆、ピーナツなどの種油に含まれる)オメガ6系脂肪酸の両方を十分な量摂ることが、健康には不可欠である。不可欠ではあるが、オメガ6系脂肪酸は、体の部位を問わず炎症の一因になると考えられている。一方、オメガ3系脂肪酸には抗炎症作用がある。オメガ3系脂肪酸は、脳をはじめ、ほとんどの体器官にとって非常に重要であるが、ほとんどの野菜において、オメガ6系脂肪酸よりも含有量が少ない。十分な量のオメガ3系脂肪酸を摂ることができる優れた食事をすることに加え、十分な量のビタミンC(3,000~10,000 mg/日)、ビタミンD(2,000~10,000 IU/日)、ビタミンE(400~1,200 IU/日)、マグネシウム(300~600 mg/日)を摂れば、循環器疾患のリスクが下がる可能性がある[7]。

(Dr. Damien Downingはロンドンで開業している専門医で、イギリス生態医学協会の会長である。Robert G. Smithは生理学者で、ペンシルべニア大学ペレルマン医学大学院の特任准教授である。)

参考文献

1. Abdelhamid, A, Brown TJ, Brainard JS, et al., (2018) Omega 3 fatty acids for the primary and secondary prevention of cardiovascular disease.(循環器疾患の一次・二次予防に対するオメガ3系脂肪酸の効果) Cochrane Database of Syst Rev. 7:CD003177.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30019766 

http://cochranelibrary-wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD003177.pub3/abstract

2. Miller ER, Pastor-Barriuso R, Dalal D, et al., (2005) Meta-Analysis: High-Dosage Vitamin E Supplementation May Increase All-Cause Mortality.(メタ分析:ビタミンEの高用量補給によって全死因死亡率が高まる可能性) Annals of Internal Medicine, 142(1), pp.37-46. 下記サイトにて閲覧可能:http://annals.org/article.aspx?articleid=718049

3. Hooper L, Thompson RL, Harrison RA, et al.. (2004) Omega 3 fatty acids for prevention and treatment of cardiovascular disease.(循環器疾患の予防と治療に対するオメガ3系脂肪酸の効果) Cochrane Database Syst Rev. (4):CD003177.

http://cochranelibrary-wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD003177.pub2/abstract

4. Hickey S, Noriega LA. Implications and insights for human adaptive mechatronics from developments in algebraic probability theory (代数確率論の発展による人間適応メカトロニクスへの示唆と洞察), IEEE, UK Workshop on Human Adaptive Mechatronics (HAM), Staffs, 15-16 Jan 2009.

5. Hickey S, Hickey A, Noriega LA, (2013) The failure of evidence-based medicine?(科学的根拠にもとづく医療の不備) Eur J Pers Centered Healthcare 1: 69-79.

http://ubplj.org/index.php/ejpch/article/view/636

6. Cortie CH, Else, PL, (2012) Dietary docosahexaenoic acid (22:6) incorporates into cardiolipin at the expense of linoleic acid (18:2): Analysis and potential implications.(食事性ドコサヘキサエン酸(22:6)はリノレン酸(18:2)を犠牲にしてカルジオリピンに結合:分析および潜在的影響) International Journal of Molecular Sciences, 13(11): 15447-15463.

http://www.mdpi.com/1422-0067/13/11/15447

7. Case HS (2017) Orthomolecular Nutrition for Everyone.(万人のためのオーソモレキュラー栄養学) Turner Publication Co., Nashville, TN. ISBN-13: 978-1681626574