1969年、私はオーストラリア・シドニーに生まれ、3歳の頃にクイーンズランド州へ移りました。1975年には父の仕事の関係でギリシャに住むことになり、アテネのインターナショナル・スクールに5歳から8歳までの3年間通いました。この間、ヨーロッパ諸国やシリア、レバノンといった中東の多くの国を旅し、様々な文化に触れることができました。
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「Be Healthy,Be Beautiful.」
ミス・ユニバース・ジャパンでの公式栄養コンサルタントとしての経験を活かし、現在もNHK WORLDの医療情報番組「MEDICAL FRONTIERS」のプレゼンター、メディアへの寄稿、SNSでの情報発信、書籍の執筆、ブランドの立ち上げなど多忙の毎日を過ごすエリカ・アンギャルさん。
国際栄養医学シンポジウム2022で「オーソモレキュラー・アンバサダー2022」への就任も決まった彼女に、人生と食・栄養についての考え方、そして日本人への想いなど、余すことなく伺ってみました!
生い立ち、そして日本との出会い
一度はオーストラリアに帰国しますが、「海外で多くの文化に触れたい!」という気持ちを抑え切れず、1985年にはAFS日本協会の交換留学生として来日し、大分県の日田市で4世代家族と1年間暮らしていました。
交換留学を終えて再びオーストラリアに帰国した後、高校を卒業し、日本語を専門とする現代アジア研究の学士号を取得しました。その後、日本からのゴールドコーストへの投資が最も盛んな時期に日系企業に勤めることになります。このように、日本との関わりは学生の頃から始まりました。
栄養の重要性に気付くきっかけとなった「ある出来事」
ティーンエイジャーの頃、ニキビに悩む日々が続いていました。そんな中、交換留学生として日本へ行くことになり、この1年間の経験が私にとって大きな気付きを得るきっかけとなりました。
ホームステイ先では、伝統的な日本食をいただく毎日でした。すると、あれだけ悩んでいたニキビが、だんだんと消えていったのです!この体験が「毎日の食習慣が肌のコンディションに影響を与える」ことを私に教えてくれました。
それだけでなく、「栄養療法が私の命を救ってくれた」と言っても過言ではありません。というのも26歳の時、血尿と疲労、そして免疫異常のため、2人の専門医を受診することになりました。その結果、「IgA腎症」と「慢性疲労症候群」と診断されました。
当時の私はまさに“グルテン中毒”で、体調は絶不調でした。そこで、私はシドニーで機能性医学・統合医療を実践する医師を受診し、食事と生活習慣を変えていくことにしました。この治療プログラムには重金属デトックス、サプリメントの活用、グルテンカットなどが含まれていました。治療を開始してから1年でIgA腎症の血液・尿マーカーは正常値となり、今に至ります。
この医師たちには今でも感謝していますし、この時の苦しい体験があったからこそ、現在の私がいるのだと思っています。
予防医学・栄養学への関心の高まりと、終わることのない学び
1992年、オーストラリアの日系企業で働いていた私は東京へ転勤となりました。しかしながら、当時の私にとっての本当の関心は予防医学にありました。こうした自分の気持ちに忠実に生きようと、オーストラリアに帰国します。それから2年後、私は栄養学の勉強を本格的にスタートしました。
そしてシドニー工科大学で健康科学の学士号、ネイチャーケアカレッジ(シドニー)で栄養科学のディプロマを取得し、シドニーの統合医療と環境医学のクリニックでインターンシップを行いました。
その後、米国オレゴン州のウェスタン・ステーツ大学で人間栄養学と機能医学の修士号にチャレンジしました。仕事とのバランスが難しく、修了できていませんが、海外の栄養学・予防医学に関するシンポジウムや講演会に積極的に参加して、栄養学の最新の情報を日々アップデートできるように努めています。
エリカ・アンギャルとオーソモレキュラー医学
私からすると、食事と栄養はどちらも強力な薬です。この分野においては、先ほどもお話しした通り、過去数十年とりわけこの10〜15年で研究が急速に進んできました。
今では、遺伝学に対する栄養の影響、食物と栄養素さらには私たちのライフスタイルが特定の遺伝子のオンとオフをどのように切り替えるかについて、多くのことが分かってきています。
特に、微生物と健康に関する研究は爆発的に増えています。また、微生物がほとんど全ての健康状態に与える影響、個別化栄養学、植物化学の分野でも研究が進んでいます。
ミス・ユニバース・ジャパン公式栄養コンサルタント就任時の話
私は2004年から2012年まで、ミス・ユニバース・ジャパン公式栄養コンサルタントに就任していました。この8年間で印象に残っているエピソードはたくさんあります。
就任して間もなかった2004〜2005年頃は、食事とカロリーについての誤った情報が多く伝わっており、候補者たちの食事はひどいものでした。例えば、過剰なまでのカロリー制限や良質な脂肪のカット、便利なダイエット食品や超加工食品への依存などが挙げられます。間違った美意識から過度に痩せてしまい、今すぐ体重を増やさなければならないほど深刻な栄養状態の子もいました。
私の指導で食生活を変えてもらった結果、ニキビや肌荒れといった肌トラブルが改善した候補者を何人も自分の目で見てきました。グルテンや乳製品フリーを試したことで肌がキレイになり、体臭や活動レベル、ひいてはメンタルまで安定した方もいました。
“日本と食・今昔物語”
和食について、思うところがあります。
「およそ半世紀前の日本人の食事」と「食の欧米化が進んだ現代日本人の食事」とを比較した時、変わったことは何か思い浮かべてみていただきたいのです。さて、皆さんの頭の中には何が思い浮かぶでしょうか。
私としては、大きく分けて3つあると考えています。1つ目は、家庭の食卓に並べられる食事は、70年代までは伝統的な和食がメインだったということ。次に、土壌の栄養価の質が大きく変化したことです。
そして特に大きな違いとも言える3つ目は、超加工食品の大幅な流通でしょう。なぜなら、高度に加工された食品であればあるほど、含まれる栄養素が少なくなるためです。
一度、ティーンズ雑誌モデルの女の子たちに食生活についてアドバイスしたことがありますが、その時びっくりしたことがありました。彼女たちに2週間の献立の写真を撮ってもらったところ、朝食はグミやアイス、昼食と夕食は抜きで翌日朝はパンケーキといった具合で、野菜や魚をまるっきり食べない食生活を送っている子がいたのです。
彼女たちの中には、生理不順やうつ病を患っている子もいました。毎日の食習慣が心身に与える影響を強く再認識した瞬間でした。
高度加工食品の「魅力」と「落とし穴」
時間がない多くの現代人にとって、調理の手間が省ける加工食品は、非常に便利で魅力的な存在でしょう。けれど、市販の食パンや菓子パンにはトランス脂肪酸や小麦粉、砂糖などが入っている場合がほとんどです。これらには中毒性があるので、食べ過ぎには注意しなければいけません。
さらに付け加えると、世界的にみても日本は添加物に関する規制が緩いと言わざるを得ません。例えば、トランス脂肪酸や保存料、乳化剤、消泡剤などですね。また、日本ではカロリーオフなどと謳う「一見ヘルシーそうに“みえる”もの」に惑わされて、それを「体に良いもの」として摂取している人が、まだまだ多いように感じるのが本音です。
話題になっている加工食品の中には、あまりよろしくない添加物が大量に含まれている商品もありますので、ご自分の体のためにも選ぶ際は慎重になっていただきたいと思います。
メディアへの発信、執筆作業、ブランド設立、現在の主な活動
<画像>プレゼンターを務める医療情報番組「MEDICAL FRONTIERS」(NHK WORLD)
現在はマスメディアや書籍・SNS・イベントなどを通じて、予防医学に関連した情報を発信しています。
医療情報番組「MEDICAL FRONTIERS」(NHK WORLD)では2015年以降、7年間プレゼンターを務めています。同番組は光栄なことに高い評価をいただき、2022年8月からは米国公共放送のPBSでの配信も開始されました。
また、私はこれまでに食と健康・栄養に関する本を15冊執筆しています。昨年2021年には『最強でエレガントな免疫を作る100のレッスン』(幻冬舎)を出版し、免疫を高めるためにできることについて、私が持っている知識をこの一冊に詰め込みました。
この本を出版しようと意を決したのは、日本においてマスクやこまめな消毒など、あまりに基本的なコロナ予防対策しか呼びかけられていないことに加え、メディアの報道姿勢にも疑問を感じ、居ても立ってもいられなくなったからです。
他方ではブランド「Well&B」を設立し、「インナービューティーアルカライズグリーンズ※1」を取り扱っています。さらに、表参道のオーガニックレストラン「BROWN RICE」と共同でオーガニック・グルテンフリーのシリアルバーやグラノーラも開発しました。
また、健康・栄養・美容あるいは健康的なライフスタイルと考え方に関するトークショーやセミナーに出演し、女性誌『GINGER』ではビューティフードレシピを寄稿しています。
※1:現代人に不足しがちなアルカリ度の高い厳選食材を詰め込んだグリーンカクテル。
<画像>エリカ・アンギャルさんの著書
エリカ・アンギャルから、最愛なる日本の皆さんへ
これからの時代、オーソモレキュラー医学や機能性医学といった予防医学分野は、健康を守るための重要な役割を担っていくと考えています。健康であることは“かけがえのない宝物”です。けれども、健康なうちはなかなかそのありがたさに気付くことができないものです。
加えて、日本には保険医療制度があります。病気になったら薬を飲むことがある意味当たり前な感覚として定着する一方で、病気を予防しようとする意識が薄くなるのは、この制度が大きく影響していると思います。
メインが保険診療なら、保険診療でかかるコスト=標準的な医療費と考える。そうなると保険外診療を「高い!」と感じてしまうのは、ごく自然な感情かもしれません。
しかし、私の目線から言わせていただくと、日本の医療費はあまりにも安すぎます。医療費が安価であるために、将来の健康への投資となるサプリメントや点滴、オーガニックフード、統合医療のドクター(Integrated doctor)や機能性医学(Functional medicine)のドクターの診断などを「コストがかかる」と嫌厭してしまう。
厳しい言い方になりますが、「病気になったら薬を飲めばいい」という考え方は、はっきり言って時代遅れです。
また、カロリー過多でありながら栄養不足(必要な多くの栄養素が不足している状態)だったり、そもそも摂取カロリーが十分でない人も少なくありません。日本の食生活の劇的な西洋化と、日本食における高度加工食品や添加物の急激な増加が大きな原因として考えられます。こうした状況が相まって、刻々と時限爆弾が仕掛けられているように思うのです。
土壌中の重要なビタミンやミネラルなどの栄養素は枯渇(土壌については、ここ40年で50〜80%ほどの栄養素が失われているといったショッキングな研究結果も出ています)し、現代の農業のあり方、さらには多くのライフスタイル要因(ストレスや睡眠不足など)を含め、私は日本の皆さんの将来の健康が心配でなりません。
「予防医学」と聞くと、多くの若い人にとっては、どことなく自分にはまだ関係のない話だと思われてしまうかもしれません。ところが、日本の医療制度の財政負担はすでに限界に達しています。現在の医療システムで、将来起こる可能性がある生活習慣病・慢性疾患の流行に、どれほど対応できるのか疑問です。
あらゆる生活習慣病とともに、慢性的な体調不良は加速する一方です。「日本の方、特に若い人たちに自分の健康を守る意識をいかに高めてもらうか」。これが、私エリカ・アンギャルに課せられた1つの大きな使命だと感じています。
生活習慣病は、今すぐになる病気ではありません。10年後、20年後、はたまた30年後に発症するものです。日本の医療システムを守るためにも、これまで以上に個々人が「自分の健康は自分で責任を持つ」という意識を持つことが大切になります。
そして自分の健康を守ろうとした時、予防医学・栄養学的視点は、きっとあなたにとっての大きな財産となるでしょう。
<参考ウェブサイト>
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