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がんに負けない体づくりは「毎日8時間」の睡眠から

この記事の執筆者

ごきげんクリニック浜田山

ビタミンC点滴療法や栄養療法のメッカとも言えるリオルダンクリニック(アメリカ)へ研修のため留学。留学中、米国抗加齢医学会の専門医試験に最年少で合格。また米国で開催される国際学会に多数出席し、世界の機能 ... [続きを見る]

あなたは、もしも長生きしたいと思ったらどのように様々な病気を予防しますか?
また、残念なことにがんと診断されたとしたら、あなたはどうしますか?

毎日の食事に気を使い、食べる野菜の量を増やしたり糖質を控えるかもしれません。健康の増進に努めたり、がんに効きそうなサプリメントを摂るのも良いでしょう。タイトルから私の言いたいことがすでにわかっておられる方も多いかと思いますが、睡眠不足・ジャンクフード・運動不足の3つを天秤にかけたとすると、一番体に悪くがんを促進するのは睡眠不足です。

たとえ毎日健康的な食事を心がけていても、高品質のサプリメントを摂っていても、睡眠が足りていなければ水の泡となってしまいます。がんに負けたくない私たちにとって、睡眠は決して無視できない“最重要課題”と言っても過言ではないのです。

睡眠の量と質、リズムを整えて、がんを克服する第一歩を踏み出す準備はできていますか?

睡眠と生物の“切っても切れない関係”

睡眠が人の健康にとっていかに重要かご説明する前に、まずは睡眠と生物の関係についてご紹介します。私たち人間は朝日が昇る頃に起床し、夜暗くなってから眠るという生活を何万年も繰り返してきました。これは「概日リズム」と呼ばれる体内時計が、目から入ってくる太陽の光の信号に反応して正確性を保っているためと考えられています。

このような睡眠や体内時計の機能は人間だけ特別に持っているわけではなく、この世に存在する24時間以上の寿命を持った生物なら、たとえそれが昆虫でも植物でも、バクテリアのような単細胞生物でさえも確認されています。

寝ている間は食べ物を探すこともできず、また天敵に襲われる危険性が格段に上がるにも関わらず、太古の昔から生物が生存していく上で睡眠を手放さずにきたのは一体何故なのでしょう。その答えは「眠るからこそ、また概日リズムが安定しているからこそ、体の様々な機能(食事や深部体温の調節、ホルモン産生やインスリン、グルコースの分泌調整、そして細胞の再生まで)が滞りなく執り行われるから」です。睡眠なくしては健康どころか、生命の維持さえできません。正直、目を覆いたくなるような論文ですが、ラットや犬の眠りを阻害し続けるとかなり早い段階で死に至ることが研究でも示されています。

脳への影響だけじゃない?睡眠不足がもたらすもの

では実際に睡眠不足や睡眠の質の低下、そして概日リズムが正常に機能しないことで私たちの体にはどのような影響が出てくるのでしょうか。

よく眠ることは、まず脳の機能を保つために必須です。ラットでの実験ですが、赤ちゃんの睡眠を奪うと脳の皮質が作られなくなり、その後寝かせても脳の発達の遅れは一生残りました。

学生さんなら試験前には徹夜せずに必ず寝た方が良いです。情報を暗記した後、8時間寝たグループとそのまま起きていたグループでは、寝たグループの方が記憶の定着が20〜40%も良かったと報告されています。高齢者の認知機能の維持や改善にも睡眠の量や質が大きく関わります。

睡眠不足とパフォーマンスの低下(集中力など)の関連について実感がある人も多いかもしれません。驚くべきことに、睡眠時間が4時間で車を運転した場合、飲酒運転と同じくらい運転ミスを起こす可能性があります。

他にもうつやPTSD、統合失調症や双極性障害などの精神疾患の発症や増悪にも関係します。さらに睡眠時間が6時間未満だと、ジャンクフードへの渇望が増えることや満腹ホルモンのレプチンが減る一方で食欲を刺激するグレリンが増えることなどから、運動しても肥満になる可能性が高くなります。

また、アルツハイマー病や糖尿病、冠動脈性疾患や脳卒中などのリスクが急激に上昇したり、男性ならテストステロン、女性であれば卵胞刺激ホルモンの低下により妊娠に苦労する確率や流産する確率が高まる可能性があります。テロメアが短くなって老化することも確認されていますし、免疫力もてきめんに低下します。

健康なボランティアの鼻にライノウイルス(風邪を引き起こすウイルスの一種)を注入し、睡眠時間ごとに分けて感染率を観察した実験では、睡眠が5時間未満のグループの感染率が50%だったのに対し、7時間以上寝たグループの感染率はたったの18%にとどまりました。

睡眠不足とがんや遺伝子との関連

もちろん、睡眠とがんの関連についても研究されています。睡眠不足によってがんと戦ってくれる免疫細胞が減り、免疫機能を強化する遺伝子の活動が低下します。逆にがんを促進するような慢性炎症や細胞ストレス、血管新生に関連する何百もの遺伝子に影響があり、また交感神経が過活動になり、コルチゾールも過剰に分泌されるようになります。

実際マウスに悪性腫瘍を注入した実験では、寝不足にしたマウスは眠っていたマウスと比べてがんの成長速度と大きさが2倍に増えたこと、攻撃性がはるかに増したこと、加えて転移も多かったことが報告されています。

25,000人以上を対象とした大規模研究では、睡眠時間が6時間以下の人は7時間以上の人と比べて、がんの発症リスクが40%増加することが報告されています。がんの性質や再発に関しても、睡眠不足の女性の方が攻撃性の高い乳がんを発症する可能性が高いことや再発リスクが上昇することなどが報告されています。

このような科学的な裏付けもあり、WHO(世界保健機関)は概日リズムが安定しない夜勤のある仕事について「発がんの危険がある」と正式に認めています。また、デンマークではそのような仕事の女性が乳がんを発症した場合、補償金を支払う制度もあるそうです。

がん関連疲労

がんの患者さんに睡眠が必要な理由としてもう一つご紹介したいのが、最近注目されている「がん関連疲労(CRF:cancer related fatigue)」という概念です。この「がん関連疲労」は、がんや化学療法などの治療によって起こる倦怠感や疲労感のことで、患者さんの2599%に認められ、QOLの低下に影響を与えます。がんの再発、生存率と関連し、治療後5年以上も続くこともあります。
ストレス解消や質の良い睡眠、日中の活動的な生活によって改善し、がんは疲弊するからといって過剰に安静にしているだけでは改善しないことが明らかになってきました。限られたエネルギーを賢く使いたいですね。 

化学療法中の患者さんでも、明るい光に当たることで疲労が改善することや、うつ症状の改善やQOLの向上につながることがわかっています。外に出られる場合は自然光に当たることで夜間熟睡しやすくなりますし、自然光が難しい場合はフルスペクトラムLEDライトでも同様の効果が報告されています。

理想的な睡眠のために心がけたいこと

お待たせいたしました。最後に理想的な睡眠を取るための方法をお伝えしたいと思います。概日リズムを保つために、次のようなことを意識してみてください。 

  • 可能であれば日中に屋外へ出て自然光を浴びる
  • 昼寝は午後5時以降はしない
  • 1日に少なくとも10分の運動をする
  • 寝る前に携帯やパソコンを見ない など

また、カフェインはメラトニンという睡眠を促すホルモンを強力に抑えることに加えて、アデノシンという睡眠に関連する物質にも競合するため、午後の時間帯には控えた方が無難です。デカフェのコーヒーであっても、カフェインが通常のコーヒーの15〜30%程度は含まれているので油断できません。年齢が上がるとカフェインの分解速度も落ちるので高齢の方は特に注意をしてください。

睡眠の改善には認知行動療法や太極拳、ヨガといったストレスを緩和する方法が効果的です。多くの論文で睡眠の質を改善し、日中のうつや疲労感を減らしたりメラトニンのレベルまで上げてくれることが示されています。乳がんの患者さんの研究では、毎週1回の太極拳を3ヶ月間行ったところ、15ヶ月後の検査でがんの進行に影響する炎症性遺伝子の発現が改善していたということです。

質の良い十分な睡眠で「がんに負けない」生活の基盤を固めていきましょう。睡眠はかけがえのないものです。代わりになってくれる薬や治療も存在しないので、毎日睡眠時間を削ってご自身の遺伝子を組み替えないようにしてください。自戒の念も込めて・・・。

次回は質の良い睡眠の強力なパートナーとなってくれるサプリメントをご紹介させていただこうと思います。






※本記事は『統合医療でがんに克つVOL.134(2019年8月号)』にて掲載された『リオルダンクリニック通信3』を許可を得た上で一部調整したものです。

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