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禁煙と栄養について

禁煙をすることのメリット

この記事の執筆者

ねがみ みらいクリニック

自己紹介

人間ドック・健診医学を学び、携わった経験から、病気と言われる前に体の不調をなくし、より健康な状態を保 ... [続きを見る]

2023年7月に行われたアメリカ栄養学会の年次総会で、寿命を延ばす8つの生活習慣の一つに喫煙経験がないことが挙げられました。一度常習的な喫煙をすると、その影響は禁煙しても10年以上もつきまといます。しかし、禁煙をすることには大きなメリットがあり、さらには栄養学的な観点を取り入れた禁煙を行うことにより、多くのリスクが軽減し、場合によっては改善することすら期待できるかもしれません。

ただタバコを止めるだけではなく、将来発生するリスクに対して具体的な対策まで講じることのできる、栄養学的禁煙を実践してみませんか?

喫煙の害

ニコチン、タール、カドミウム、ヒ素、アンモニア、ダイオキシンなどを含む5,300種類もの化学物質、70種類以上の発癌物質が含まれているのがタバコの煙です。

これを口呼吸で吸い込んで、口から吐き出します。

吸収に好都合の薄い上皮と豊富な血管分布のある口腔内、肺胞が濃い濃度の有害物質にさらされるため、これらの物質は速やかに全身に運ばれます。

その結果、口腔内、気道や肺といった局所だけではなく、全身の酸化ストレスをきたし、炎症を引き起こし、がんを誘発することとなります。部位別にどんな悪影響を起こすか見てみましょう。

<口腔(全ての入口)>

  • 口呼吸となる:アトピー、歯列の異常、うつ病、口腔や咽頭筋の異常、免疫異常
  • 歯肉炎、歯周病が悪化:血管の収縮による歯肉の血流低下と唾液の量の低下

<呼吸器系>

  • 繊毛の消失:気道に侵入する異物や痰などを除去する能力が鈍くなる
  • 粘液腺・腺細胞の異常:痰や粘液分泌の増加
  • がん:気道粘膜の組織学的変化、細胞の分化形質の異常
  • COPD:細気管支周囲の繊維化や破壊、肺胞の繊維化・硬化、ガス交換障害
  • 血圧上昇や動脈硬化:小動脈数の減少、肺血流量の調節機能低下

<全身>

  • 酸化ストレスを亢進:心血管疾患、動脈硬化
  • がん:食道がん、肝臓がん、子宮頸がん、膀胱癌、膵臓がん、胃がん
  • 精神神経疾患:うつ病、不安、アルツハイマー病のリスクを増加
  • 腸内細菌叢の異常:生体の免疫恒常性や酸素、p H、酸生成などの体内環境悪化
  • 最終的に全ての疾患に関連

禁煙によるメリット

喫煙経験がないことはいいことですが、喫煙者が禁煙することで得られるメリットも大きいものです。

  • 禁煙後数時間:一酸化炭素レベル非喫煙者と一緒
  • 数日後:味覚、嗅覚が鋭敏になる
  • 1〜2ヶ月:咳、痰、喘鳴が改善
  • 1年:軽症から中等症の慢性閉塞性肺疾患(COPD)の肺の機能が改善し始める・歯の喪失リスクが下がり始める
  • 2〜4年:心臓の病気のリスクがタバコを吸い続けている人に比べて低下
  • 5〜10年:歯周病による歯の喪失リスクレベルが非喫煙者と同等になる
  • 10〜15年:咽頭癌のリスクがタバコを吸い続けている人より60%低下・歯の喪失リスクレベルが非喫煙者とほぼ同じ
  • 10〜19年:肺がんのリスクがタバコを吸い続けている人より70%低下
  • 20年:口腔がんのリスクがタバコを吸わない人と同等

そして禁煙しても恐ろしいCOPDという疾患があります。

喫煙後二十年以上を経て禁煙しても発症する呼吸困難を伴う肺疾患です。世界保健機構(WHO)によると世界で3番目に多い死因の疾患なのです。喫煙による慢性閉塞性肺疾患のメカニズムには、酸化ストレス、炎症、細胞⽼化、 ミトコンドリアのオートファジーの抑制、免疫調節不全、肺-腸軸を介した腸内微⽣物叢が関与しているとされていて、実は全身疾患なのです。さらに恐ろしいことに喫煙は肺内に炎症細胞の蓄積を起こし、内因性活性酸素の増加を引き起こし、これは禁煙後も持続していることもわかっています。

これらを見てわかるように、長年吸ったタバコの影響がなくなるには時間がかかりますし、時間が経ってから疾病が表面化してくるものまであります。この時間の差を補い、よりリスクの低いものにしてゆく禁煙を提案いたします。

そのキーワードが栄養学的禁煙です。

栄養学的禁煙はこの6つ

1:空気の通り道を正常化させる(鼻呼吸をする)

栄養素は体になくてはならないものです。その究極は、空気です。

綺麗な空気を正しい経路で体内に取り込むことは、生きることの基本ではないでしょうか?

喫煙は、口から吸って口から吐く、口呼吸になります。

口呼吸は唾液の量が減少し歯周病や虫歯、歯肉炎といった直接に歯の問題になる病気だけでないのです。口の奥にある外界からくる異物や毒物から体を守る口蓋扁桃が、鼻というフィルターを通さない空気に晒されるために炎症を慢性的に起こす「病巣感染症」という病態になり、リウマチや乾癬、自己免疫疾患を起こすことがわかっています。またメンタルヘルスにも影響していると言われます。

また気管・気管支では鼻腔内や上咽頭で免疫寛容が行われないため、抗原などの遺物が侵入した際の気道-肺レベルの炎症や組織破壊が発生しやすくなります。

まず、最初に鼻呼吸を行うことが大切で、歯の喪失リスクレベルを低減させる可能性や脳の温度調整によるメンタル面への喫煙による悪影響から少しでも早く離脱できる可能性があります。

2:ビタミンC摂取

喫煙はビタミンCを大量に消費します。長い間ビタミンC欠乏に陥っていた体は、リスクにも挙げたようにがんのリスクが高い、動脈硬化のリスクが高い、メンタルに支障もきたしやすいことに加え、「タバコ顔」と言われる顔貌を示すことも有名です

タバコ顔とは目の周辺、顎の皮膚のたるみ・クマ、ほうれい線やしわ、瞼や歯肉の色素沈着や血色不良が目立つ顔です。

高くなっているがんのリスクや、心臓の病気のリスク(動脈硬化)に対して、ビタミンCにはがんの成長を抑制したり、転移を抑えたりする作用、抗酸化作用、コレステロールの代謝作用があります。

また、美容効果があり、コラーゲン繊維の構築で肌のたるみやしわを改善し、抗酸化作用、メラニン色素の還元作用があります。

同時に喫煙によって発生してしまった口腔内の劣悪な環境を改善することにより歯周病や病巣感染を改善します。

さらには現在在宅酸素率一位の疾患のCOPDの改善に関しては、2013年に日本で出された論文ではCOPD を発症後にビタミンCを十分に摂取すると壊れた肺胞が修復することが報告されています。

3:ケルセチンの摂取

ケルセチンは一般的なフラボノイドの一つで、その構造がフェノールであるため強力な抗酸化作用があります。ワイン、玉ネギ、トマト、⼤根の葉、ブロッコリー、レタス、クランベリー、リンゴ、ナッツに含まれています(図1)。

ケルセチンは、COPDの活性酸素と酸化損傷を改善し、炎症反応を軽減させて、肺内の好中球やマクロファージの貪食作用を促進させ感染予防効果を示します。さらにはミトコンドリアオートファジーをコントロールし、抗細胞老化効果を示します。さらには、ビタミンCとケルセチンはPM2.5によるヒト肺上皮細胞のミトコンドリア構造と機能の損傷を抑制することもわかっています。

さらには腸内細菌生物叢では、喫煙によって減少したビフィズス菌と乳酸菌の減少を改善することもわかっていて、喫煙によって乱れた腸内細菌叢の早期の回復の一助となります。

またケルセチンには心臓血管疾患に対しても効果的であるという論文もあります。

(図1)

4:腸内細菌叢の改善

喫煙は腸内細菌叢の多様性を減少させ、バクテロイデテス属と放線菌の存在量を増やすことがわかっています。

クトバチルス•ラムノサスの経口介入が、肺における抗炎症環境を誘導するという研究結果もあります。プロバイオテクス、プレバイオティクスにて腸内細菌叢を整えることによって、肺-腸軸によるCOPDの改善だけではなく、発癌のリスク、動脈硬化のリスク対策になるのです。

5:亜鉛

喫煙は亜鉛の消費を増大し、亜鉛欠乏状態が長く継続しています。

タバコに含まれるカドミウムはCOPDや冠動脈疾患や腎臓病の原因となりますが、カドミウムが毒性を発揮する原因となるタンパク質との結合に亜鉛が拮抗すると言われています。

亜鉛の食事摂取量不足は冠動脈疾患のリスクや、COPDと関連していることもわかっています。

腸内細菌叢の改善、コラーゲン合成のためにも不足した亜鉛を充足させることは、大切なポイントになります。

6:タンパク質

体の免疫にかかる抗体、栄養素を消化吸収するための消化酵素、歯や骨皮膚などのコラーゲンや各タンパク質の材料はたんぱく質です。

喫煙で酸化ダメージを受けた体を補修する際、免疫状態が改善することによってグロブリンやコラーゲンなどが作り直されたり補修されるときにも材料としてのタンパク質は大切です。

まとめ

禁煙はとてもいいことですが、長年蓄積してきた喫煙による障害やリスクはすぐには消えないものです。禁煙するだけではなく、栄養学的なアプローチを合わせることは、過去の喫煙による体の傷害を補い、残存したリスクを減らすことによって、過去の喫煙からの呪縛から解き放たれ、自らが望む健康をより早く手に入れることができます。

喫煙の「亡霊」の「リスク達」に悩まされず、前向きに健康に生きて行ける道が栄養学的禁煙です!

時間が経ってから疾病が表面化してくるものまであります。この時間の差を補い、よりリスクの低いものにしてゆく禁煙を提案いたします。

そのキーワードが栄養学的禁煙です。

参考文献

※1「Sage Journals」

〜The therapeutic potential of quercetin for cigarette smoking–induced chronic obstructive pulmonary disease: a narrative review〜

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/17534666231170800

・「Journal Reseach in Personality」

〜Cigarette smoking and personality change across adulthood: Findings from five longitudinal samples〜

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0092656618300825

・「International Journal of Environmental Research and Public Health」

〜Cadmium and Cadmium/Zinc Ratios and Tobacco-Related Morbidities〜

https://www.mdpi.com/1660-4601/14/10/1154

・「NUTRITION 2023」

〜Session: Nutrition-related Factors in Aging and Chronic Disease (Poster Theater Flash Session 7〜

https://www.researchgate.net/publication/372696279_PTFS07-07-23_Eight_Modifiable_Lifestyle_Factors_Associated_With_Increased_Life_Expectancy_Among_719147_US_Veterans

<参考ウェブサイト>

国立研究開発法人 国立がん研究センター「がん対策研究所 予防関連プロジェクト」

https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/8090.html

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