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血液検査では発見されない?虫歯や歯周病の細菌感染

この記事の執筆者

草加ファミリー歯科・矯正歯科クリニック

臨床歴13年。配偶者が原因不明の体調不良で倒れ、9年間の闘病生活を送る。100件以上の病院を巡り、30種類以上5500錠以上の薬を処方されても治らなかった症状がたったの7日間で全快した経験をきっかけに ... [続きを見る]

この頃「歯は大切」「口腔内と全身の健康には関係性がある」というお話をよく聞くようになりました。

私自身も著書『あらゆる不調をなくす 毒消し食』の中で、口腔と全身の健康の関係についてお話しさせていただきました。しかし、こうした言葉の広まりとは裏腹に、全身との関連性は感じにくいものです。その原因の一つとして、歯科疾患は症状に気付きにくいことが挙げられますが、単純に自覚症状の有無に留まる話ではありません。

これは私自身も臨床に血液検査を取り入れるようになって驚かされたことなのですが、重篤な歯周病の患者様であっても通常の血液検査の結果では炎症の兆候が認められませんでした。一方で、歯周病関連菌のP.gingivalisの持つジンジパイン(gingipain)という酵素は血小板凝集能があると言われていて、凝集した血小板の剥がれにより血栓を作る可能性も示唆されているように、口腔内細菌と全身への影響が注目されてきているのも確かです。では、口腔と全身の関連性は一体どうなっているのでしょうか?

現段階において私が考えている口腔は、数少ない「外側から体の内部が観察できる場所」であり、全身症状のうちの一症状が観察できる部位であるということです。ただ、症状の根本的な改善については口腔内だけを対象としてもなかなか難しい点も多いように感じています。今回は私が考える「口腔内と全身の関連性」についてお話しします。

なぜ虫歯や歯周病の細菌感染は血液検査に反映されないのか

すでにオーソモレキュラー療法を実践されている方におかれましては、歯周病による細菌感染や内毒素および炎症によって生じる炎症性サイトカインを介した全身での様々な反応についてはよく知られていることだと思います。とりわけ、その反応の中にある「C反応性タンパク(以下、CRPと記載)」の生成に関しては、最近ではHbA1cに影響を及ぼす可能性まで示唆されているほどです。

また、歯周病由来の炎症性サイトカイン(TNF-αやIL-6など)がインスリン受容体をブロックしてインスリン抵抗性を示すようになるなど、全身への繋がりが認識されるようになってきました。これらの話から、歯周病や虫歯などによる炎症も「通常の血液検査で計測できるだろう」と考えたくなります。

例えば「炎症によるCRPで上昇がみられるなど、何らかの特徴的な所見があるだろう」と考える訳です。しかし、実際に血液検査の結果を目にすると、歯周病の炎症の程度が反映されている様子は確認できない場合が多いです。また、歯周病が進行し多くの歯を失うような人であっても、通常行われる健康診断では“良好”と判定されるため「悪いのは歯だけです」と患者様に言われる場面も少なくありません。

これらのことは、全身と口腔との関連性が低いこと、そして特殊性が高いことを表すのでしょうか?
ここで、血液検査の一部の項目の特徴について言及したいと思います。一般的に、細菌感染症を診断する場合には「白血球数」や「CRP」が使用されることが多いかと思われます。しかしながら、これらの項目の変化は炎症全般に認められてしまうため、感染症についての特異度が十分ではありません。

また、白血球数や好中球の増加は感染症に対する感度が高いという報告がありますが、経時的な変化を表していないという面もあり、歯性感染症への応用が難しい印象をお持ちの方も多いと思われます。さらに白血球数の増減に関して言えば、感染初期や重症化した場合にはむしろ“白血球数の低下”がみられます。加えて、CRPは炎症刺激が加わってから2、3日後にピークを迎えるため、リアルタイムな状況を反映しないといった問題点が生じます。

一方、歯科領域における虫歯や歯周病などの感染症は、ほとんどの期間において慢性的に進行し、時折急性期に転じて進行し、時折発作を起こすといった病態が特徴として挙げられます。以上のことから、通常の血液検査による慢性期の歯周病のスクリーニングが難しくなっていることが考えられます。では、少し踏み込んだ血液生化学検査では細菌感染症を判断できるのでしょうか?

歯科疾患が慢性期と急性期を交互に繰り返しているという特徴を考えますと、経時的変化を捉えやすい「白血球分画」や「プロカルシトニン(以下PCTと記載)」などの項目が有効のように考えられます。白血球分画では、桿状核球の割合が15%を超えた場合に左方移動とし、細菌感染症があると判断されます。PCTは約3時間後には上昇し始め、12〜24時間経過することで、より明らかな上昇を確認できます。また、PCTの細菌感染に対する感度や特異度もCRPよりも良好であるという報告もあります。

ただ、白血球分画の注意点として「感染性心内膜炎」「細菌性髄膜炎」「膿瘍」といった左方移動がみられない感染症など、判断が難しい場合もあります。また、PCTも局所感染と全身性細菌感染とのレベル分けが有効ですが、これもまた時間経過を考慮に入れなくてはならず、現時点では歯周病に特異的な所見についての有効な報告はありません。

一方、虫歯や歯周病が細菌感染であり全身に影響を及ぼしていることは、これまで多くの研究により明らかになっています。また、血液との関連性においても、指尖血漿を用いてIgG抗体価を計測することにより歯周病病態を把握できる可能性も示唆されています。そうした状況を踏まえ、感染の程度や偽陽性の判別、そして回復の基準に関して血液検査などを用いて明確にしていく必要があるのではないかと思われます。

口腔内感染症の特異性

先に述べた白血球分画の左方移動の生じない疾患に「膿瘍」と述べましたが、歯周病において最もわかりやすく炎症が生じる部位が歯周組織であることから、口腔内感染症にはこの「膿瘍」という性質を含んでいる可能性があります。このことは、白血球分画による判断を困難にする恐れがあることを示しています。また、歯周病など口腔内の炎症の特異性も、判断を難しくする一因となっているように思います。

そもそも細菌学は、ロベルト・コッホ(ドイツの細菌学者)とその弟子たちが、『コッホの原則』に則って多くの感染症の原因菌を特定したことにより発展しました。しかし、口腔内の感染症の多くは口腔常在微生物による「内因性感染症」になります。この点において、コッホの原則が当てはまらない特殊な感染症であることが示唆されます。

内因性感染の特徴には、次のようなものが挙げられます。

  1. 潜伏期が不明確である
  2. 病態の発現は宿主の抵抗力による
  3. 免疫による治癒がみられない
  4. 原因菌の特定が困難である

抄録(冒頭部分)では、口腔内について「全身症状のうちの一症状が観察できる部位」と申し上げましたが、そうでありながら 3.免疫による治癒がみられない という、まるで一方通行のような特徴がみられます。この特徴を踏まえると、腸管免疫の改善や各種有効な栄養素の投与による免疫の改善が口腔内の炎症を抑える効果にまで及ぶかは、現時点では判断しにくいと私は考えています。ただ、歯周病発症前の段階においては 2.病態の発現は宿主の抵抗力による とされるため、腸管免疫や栄養状態の改善は有効であると考えます。

一般的に歯科医院で血液検査が行われることは少ないです。場合によっては細菌検査を行うこともありますが、患部のみのサンプル摂取の難しさ、かかる費用、歯周病原因菌と病態の因果関係における不明瞭な点の多さといった理由から、実施されることはあまりないのが現状です。日常的に行われている歯科臨床では、歯周病を判断する際には (1)持続的な炎症の有無 (2)歯周組織の破壊 が用いられます。この場合の炎症は、主に歯肉溝内からの出血の有無を判定します。そして、歯周組織の破壊については、歯周ポケットの深さを経時的に観測することでその進行具合により判断されます。

つまり、判断には即時性がなく、初見や少数回の診療での歯周病の判定が困難になってしまいます。時にその診断には数ヶ月単位の期間を要する場合もあります。また、治療によって“小康状態”なのか“改善”したかの判別にはさらに時間がかかります。術者の技量によっても左右される検査であるため、診断の信頼度も考えなければいけません。

まとめ

これまでお話ししたのは様々な要因の中の一側面です。しかし、これだけを取り上げてみても、各種検査を用いて歯周病や虫歯の炎症の病態を全身状態と関連づけることが難しくなっていると推察されます。とはいえ一部の免疫抗体反応は確認できるなど、身体反応は確実に生じていると考えられ、関連性は確実にあるでしょう。このことは、より重要な基礎的研究の観点からも確定的と言えるのではないでしょうか。

現段階においては、さらなる関連性を追求した研究が行われることを期待しながら、一方では歯科疾患が「健康診断では発見しにくく」「全身での反応を生じていること」を患者様に根気強く理解してもらう努力が必要だと考えています。そして、何よりも大切なのは、できる限り歯科疾患を患わないように日頃から注意していただくこと、自分の感覚や検査結果を過信せずに予防していただくことです。





<参考文献>
  • 工藤 値英子、成石 浩司、久枝 綾 他:歯周病スクリーニング検査としての歯周病原細菌に対する指尖血漿 IgG 抗体価の有用性;2009.

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