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慢性疲労と栄養療法

どなたにも、忙しい日々や人間関係のストレスなどから疲れを感じた経験はあるかと思います。こうした疲労感は、それ以上疲れが溜まると心身に過剰な負担がかかることを知らせてくれています。

疲労には急性疲労慢性疲労がありますが、疲労が長引く慢性疲労には特に注意が必要です。慢性疲労症候群は慢性疲労を特徴とする代表的な疾患で、以下4つの症状全てが該当した場合に診断されます。

1.強い倦怠感を伴う日常活動能力の低下
2.活動後の強い疲労・倦怠感
3.睡眠障害、熟眠感のない睡眠
4.認知機能の障害または起立性調節障害

本稿では、エネルギー代謝のメカニズムについてまとめた上で、慢性疲労の改善のカギを握る栄養素と、各栄養素を含む食材をご紹介します。

疲労は身体からの“アラーム”

激しく体を動かした後や仕事が忙しい時、はたまた日々の人間関係のストレスなどから疲れを感じた経験はどなたにもあるかと思います。そうした疲労感は、自分の心身にこれ以上過剰な負担をかけて害が及ばないように知らせるアラームとなります。

「疲労」は、「痛み」「発熱」とともに三大生体アラームと言われ、生命の健康を維持する上で大切な役割を担っています。ですから、疲労を感じたら休息を取って身体からのアラームを受け止めることが大切です。

睡眠不足や過剰な運動などから感じる一時的な疲労(急性疲労)については、休息を取ることで回復します。しかし一方で、数ヶ月にわたって疲労感が続く慢性疲労は、身体のダメージに対して回復力が間に合っていない状態なので注意が必要です。

慢性疲労を特徴とした疾患には、慢性疲労症候群(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群:ME/CFS)があります。慢性疲労症候群は、6ヶ月以上症状が持続もしくは再発を繰り返し、以下の4つの所見を全て満たす場合に臨床診断を下します。

  1. 強い倦怠感を伴う日常活動能力の低下
  2. 活動後の強い疲労・倦怠感
  3. 睡眠障害、熟眠感のない睡眠
  4. 認知機能の障害または起立性調節障害1

その病因として感染症、特にウイルス感染症の関与が言われており、その病態は中枢神経系、自律神経系、心血管系、内分泌系、エネルギー代謝系、免疫系など多系統にわたり障害をきたす疾患です。



※1起立性調節障害:自律神経の乱れから生じる病気の1つ。主な症状として、朝起きられない、めまい、倦怠感、食欲不振などが挙げられる。

慢性疲労治療としての栄養療法、その前に

このような慢性疲労の病態に対して栄養療法で取り組むにあたっては、摂取する栄養素の消化吸収が健全に行えるように、消化管の状態を整えておくことが土台・第一歩となります。

そこで重要になるのが「消化力」と「小腸粘膜のバリア機能の保持」です。消化力には加齢、口腔ケア、ピロリ菌感染、自律神経などが関与してきます。

小腸のバリア機能は、腸管粘膜の上皮細胞の再生がポイントになるので、上皮細胞の主要エネルギー源としてグルタミンの積極的な補給、また、小腸粘膜細胞・タイトジャンクションの再生や強化を促すために、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンD亜鉛はいずれも欠かせない栄養素です。

小腸粘膜上皮細胞同士のタイトジャンクションが損傷すると、バリア機能が破綻し、腸内にあるべきものが血中に侵入しやすくなるリーキーガットを起こした状態となります。リーキーガット状態は全身の過剰な炎症反応の引き金となり、ひいては慢性的な疲労へと繋がっていきます。

疲労の根本、エネルギー不足対策として重要な役割を担う栄養素とは

生体エネルギーであるATPを産生する過程には、大きく分けて「有酸素系」と「無酸素系」の2つがあります。

有酸素系エネルギー代謝はミトコンドリアが主体であり、三大栄養素(タンパク質、糖質、脂質)の全てをエネルギー源として利用します。さらに、アミノ酸は側鎖によってアセチルCoA、ピルビン酸、TCA回路(クエン酸回路)の有機酸、ケトン体に変換・異化されますが、これらの反応にはビタミンB1・ビタミンB2・ビタミンB6、マグネシウムなどが関与しており、こうしたミトコンドリア内での代謝過程において、ビタミンB群・ヘム鉄・ビタミンC・マグネシウムは重要な栄養素として関与しています。

また、無酸素系エネルギー代謝は、糖質をエネルギー源としてグルコースをピルビン酸に分解し、エネルギーを産生しています。

このように体内でのエネルギー産生が行われている一方で、ミトコンドリアからは絶えず活性酸素種が発生しています。とはいえ、それらは抗酸化酵素により消去されて酸化還元バランスが保たれ、恒常性は維持されています。

しかし、様々な要因により活性酸素種が過剰に発生したり抗酸化能が低下すると、酸化還元バランスが崩れ、酸化ストレスが引き起こされます。疲労時には抗酸化力が低下していることから、こうした酸化ストレスを軽減するためにも抗酸化力を高める必要があります。

体内で作られている代表的な抗酸化酵素としては、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)が挙げられますが、これらはすべてタンパク質から作られています。その上、カタラーゼには鉄、グルタチオンペルオキシダーゼにはセレン、スーパーオキシドジスムターゼには銅・亜鉛・マンガン・鉄といった微量ミネラルが必要となります。

栄養療法において、栄養補給の効果は摂取量によるため、こうした様々な栄養素を個々人が必要な量を摂取することが重要となります。

毎日の食事で意識したい4つのポイント

上記でお伝えしてきた栄養素を踏まえ、以下の食材を参考に献立を考えてみてはいかがでしょうか。

①消化管を整える

・・・未消化状態では粘膜のバリア機能を破綻させる原因となるため、グルテン・ガゼインフリーとし、バリア機能を向上させる栄養素を含む食品(レバー・鮭・ブロッコリー・かぼちゃなど)を摂取する。

②各エネルギー源の摂取

<タンパク質>

・・・肉、魚、卵、大豆食品から1日<1.01.5g×体重>のタンパク質量を摂取する。

<糖質>

・・・むやみな糖質制限は筋肉の減少や腸内環境の乱れに繋がるため、1食1020g程度の適正量を摂取する。

<脂質>

・・・1日の必要エネルギーのうち、20〜25%程度は脂質から摂取するのが好ましいため、n-3(オメガ3)系の脂質を含む青魚やエゴマ油・亜麻仁油などを積極的に摂取する。

③生体内の代謝に関与するビタミンB群・ビタミンC・ミネラルの摂取

・・・豚肉、レバー、うなぎ、イワシ、マグロ、サバ、カツオ、しじみ、ブロッコリー、パプリカ、アスパラガス、ほうれん草、大豆食品、海藻類、ナッツ類 など

④抗酸化栄養素を含む食品の摂取

・・・ブロッコリー、芽キャベツ、トマト、ビーツ、レンズ豆、ごま など

おわりに

2019年に始まって以降、世界的に大流行している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2022年現在も変異を続けており、感染後の深刻な後遺症に悩まされている患者さんもいらっしゃいます。

コロナ後遺症では、倦怠感や記憶力・集中力の低下、抑うつといった慢性疲労症候群と共通する症状が多くみられることから、双方の関連性が指摘されています。栄養素の不足やバランスの乱れを整えることで、感染症を含めた多くの疾患や疲労感などの不定愁訴から心身を守りましょう。





<参考文献>

・『専門医が教える筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)診療の手引き(倉恒 弘彦,松本 美富士 編著)』(2019,日本医事新報社)

https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/coronavirus/in-depth/coronavirus-long-term-effects/art-20490351

https://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/column/0790.html(東邦大学 生物学科 ミトコンドリア呼吸鎖(電子伝達系)複合体と活性酸素種)

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