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COVID-19禍における栄養精神医学~コロナ後遺症~

この記事の執筆者

医療法人山口病院

「メンタルヘルスは食事から」をモットーに、うつ病や認知症などのメンタル不調者に対して、食事栄養療法を中心とした診療を行っている。 また、栄養精神医学とともに、東洋医学が専門。大学の東洋医学科で10年 ... [続きを見る]

栄養精神医学の立場から、「コロナ後遺症」と呼ばれているPost-Acute COVID-19 Syndrome(新型コロナウイルス感染症罹患後症候群)の対策について論じました。

後遺症では、ブレインフォグ、記憶障害、集中力の低下、睡眠障害、抑うつ気分などの神経精神症状を呈することが多く、背景にある①炎症、②酸化ストレス、③免疫応答の障害、④タンパクの異化亢進を考慮する必要があります。

これらは各種ビタミンやミネラル、タンパク質の需要増加につながります。ミトコンドリアにおけるATP産生効率を高めるという観点からも、上記①〜④に対する栄養医学的アプローチが不可欠です。

栄養面を最適化した後にファスティングを行うことで、マイトファジーが促進され、抗炎症・抗酸化・免疫調節の一助となることが期待できます。

COVID-19後遺症における神経精神症状

本邦で「コロナ後遺症」と呼ばれているPost-Acute COVID-19 Syndrome(新型コロナウイルス感染症罹患後症候群)においては、ブレインフォグ、記憶障害、集中力の低下、睡眠障害、抑うつ気分などの神経精神症状を呈することが多いです。

コロナ後遺症においては「疲労感」が30〜60%程度で一番多く、疲労感の次には、気分や認知の障害が目立ち、不安・うつ、睡眠障害、認知障害が、それぞれ20~30%程度みられます1)。

<図1>COVID-19後遺症の種類

健康な若年男性にも「COVID-19後遺症」のリスク

若年であれば重要化しにくいため、「COVID-19に罹患しても大きな問題はない」という風潮がありますが、健康な若年男性であってもCOVID-19後遺症のリスクがあります。

感染前まで健康だった若年者(年齢中央値21歳)は、COVID-19に感染してもほぼ回復します。しかし180日経過後、BMIは上昇し、脂質異常症(LDL上昇)が増え、身体的持久力が低下する傾向がみられます2

<図2>健康な若年男性でもCOVID-19後遺症のリスクがある

COVID-19後遺症の対策は、ミトコンドリア機能の回復から

疲労感を中心とした諸症状に対しては、まずはミトコンドリアにおけるATPの産生効率をいかに高めるかという視点が大切です。特に、神経細胞はミトコンドリアが豊富な細胞であり、ミトコンドリア機能障害の影響を大きく受けます。

①炎症、②酸化ストレス、③免疫応答の障害、④タンパクの異化亢進 が背景にあることが多いため、各種ビタミン、亜鉛やマグネシウムなどのミネラル、そしてタンパク質の需要が高まります。そのため、日常的な臨床検査に加えて、栄養面の検査を行いながら栄養状態を積極的に最適化することが望ましいです。

<図3>COVID-19後遺症の対策は「ミトコンドリア機能の回復」から

NAD」はミトコンドリア回復の大黒柱

NADは、ミトコンドリアの機能と代謝、酸化還元反応、概日リズム、免疫応答と炎症、DNA修復、細胞分裂、タンパク質間シグナル伝達、クロマチンとエピジェネティクスに影響を与えます3)。

<図4>「NAD」はミトコンドリア回復の大黒柱

NADはリサイクルの方が多い

「NAD」は、ニコチン酸(ナイアシン)やトリプトファンからの供給よりも、リサイクルされることの方が多いです。COVID-19感染による炎症は、ナイアシンアミドの需要を高めるため、ナイアシンアミドの補充は重要です。

また、ナイアシンアミドからNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)に変換する酵素(NAMPT:Nicotinamide Phosphoribosyltransferase:ニコチナミド・ホスホリボシルトランスフェラーゼ)を活性化することが大切で、このNAMPTの活性化にはファスティングや運動が有用です。

NADの前駆物質として、NMNやニコチンアミドリボシド(NR)といったものもサプリメントとして活用されています。

<図5>「NAD」はリサイクルの方が多いー「ナイアシン」の代謝ー

NADを増やすには運動・食事・サプリメントの活用が鍵に

NADレベルを高めるためには運動や食事・サプリメントの活用が重要で、最適化することによって下記のことが期待できます。

NADレベルは年を取るにつれて着実に低下し、細胞や臓器の機能の低下につながります。NADの増加は、認知機能および感覚機能、肝臓の糖新生、脂肪組織の脂質生成、膵臓のインスリン分泌、筋肉のインスリン感受性を促進します。

また、内皮細胞の増殖を促進し、心血管疾患および脳血管疾患のリスクを下げる可能性があります3)。

<図6>運動・食事・サプリでNADが増加

COVID-19禍におけるファスティングの重要性

COVID-19感染によって、ミトコンドリアの機能が障害されることがわかっています。健全なミトコンドリアは、核分裂と融合のバランスが取れており、必要な量だけ活性酸素を生成し、バランスの取れた鉄貯蔵を行い、マイトファジーを使用して機能的なミトコンドリアを維持し、細胞を損傷から保護しています。

しかし、COVID-19に感染すると、そのメカニズムが破綻し、ミトコンドリアの機能が低下してしまいます4)。栄養状態を最適化した後に、断続的な断食(ファスティング)も考慮することにより、オートファジーを介したミトコンドリアの選択的分解機構(マイトファジー)を促進し、抗炎症・抗酸化・免疫調節のサポートが期待できます。

<図7>COVID-19でミトコンドリアの機能が障害される


「COVID-19」 と診断された患者のうち、定期的な断食(毎週水曜は水のみ)を行った患者においては、断食を行わなかった患者と比較して、重症化リスクや死亡リスクが減少しました5)。

<図8>ファスティングでCOVID-19の重症化や死亡リスクが減少


ファスティングによるマイトファジー(機能不全で不要になったミトコンドリアをお掃除・除去すること)によって、活性酸素によるタンパク質やDNAの損傷を防ぎ、炎症を抑制してミトコンドリア機能を高めることが期待できます4)。

コロナ後遺症に対する睡眠と運動の重要性

コロナ後遺症における疲労感や不安、うつ、睡眠障害、認知障害に対しては、栄養療法とともに睡眠衛生指導や運動指導を積極的に考慮すべきと考えています。

まずは、規則正しい睡眠の確保。概日リズムは、全細胞代謝、とりわけミトコンドリア活性に影響を与える多くの転写―翻訳プロセスを調節します。そのため、概日リズムの乱れはミトコンドリアの形態変化と機能障害を引き起こします。

また、睡眠時に分泌されるメラトニンは、ビタミンDや亜鉛などの栄養素とともに相乗効果的に、抗炎症・抗酸化・免疫調節に寄与しています。さらに習慣化された適度な運動もこれらに寄与し、ミトコンドリア機能を高めることにつながります。

運動は、主にミオカイン放出と脳由来神経栄養因子(BDNF)を介して、海馬の神経新生とシナプス形成を促進し、認知機能障害の予防に役立ちます。

最後に

今後、神経精神症状を持つコロナ後遺症の外来患者の増加が予想されるため、コロナ禍における栄養精神医学の重要性を啓発していきたいと考えています。





<参考文献>

  1. Alkodaymi, M. S., et al.(2022). Prevalence of post-acute COVID-19 syndrome symptoms at different follow-up periods: A systematic review and meta-analysis. Clinical Microbiology and Infection.

  2. Deuel, J. W., et al. (2022). Persistence, prevalence, and polymorphism of sequelae after COVID-19 in unvaccinated, young adults of the Swiss Armed Forces: a longitudinal, cohort study (LoCoMo). The Lancet Infectious Diseases, 22(12), 1694-1702.

  3. Rajman, L., et al. Therapeutic potential of NAD-boosting molecules: the in vivo evidence. Cell metabolism, 2018;27(3): 529-547.

  4. Ganji, R., et al. (2021). Impact of COVID-19 on mitochondrial-based immunity in aging and age-related diseases. Frontiers in Aging Neuroscience, 12, 614650.

  5. Horne, B. D., et al. (2022). Association of Periodic Fasting with Lower Severity of COVID-19 Outcomes in the SARS-CoV-2 Pre-Vaccine Era: An Observational Cohort from the INSPIRE Registry. medRxiv.

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