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新型コロナ感染とサプリメント活用ーCOVID-19対策における機能性食品成分の最新エビデンスー

この記事の執筆者

神奈川歯科大学

高知県生まれ。徳島大学医学部卒業、同大学院修了。医学博士。 米国ロックフェラー大学、東京医科大学、健康科学大学を経て、現在、神奈川歯科大学特任教授。森ノ宮医療大学客員教授。昭和大学兼任講師。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染を原因とするCOVID-19パンデミックでは、同じ環境にあってもCOVID-19にかかりやすい人と、そうではない人がいます。この違いをもたらす要因の一つが、身体の栄養状態です。この栄養状態は、重症化するかどうかにも関係します。

これまでの多くの研究により、ビタミンやミネラル、オメガ3脂肪酸(EPAやDHA)などの栄養素や、プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌)など、様々な機能性食品成分が、COVID-19の対策として有用であることが示されています。

具体的には、ビタミンC・ビタミンD・亜鉛・クルクミン・コエンザイムQ10(CoQ10)・ラクトフェリンなどが、COVID-19の感染リスクや重症化リスクを抑制することがわかっています。

実際に、COVID-19とサプリメントに関する研究では、欧米の44万人を対象にした調査により、プロバイオティクス・オメガ3系脂肪酸・マルチビタミン・ビタミンDのサプリメント利用者は、非利用者に比べて感染リスクが低いことが示されました。

今後「集団免疫の獲得」などにより、COVID-19のパンデミックは収束に向かうことが期待されます。一方、新たな変異株への懸念や新興感染症の周期的・局地的な流行は、今後も継続します。

したがって、COVID-19も含めた新興感染症対策として、セルフケアおよび補完療法での機能性食品成分を含むサプリメントの活用が有用です。本稿では、COVID-19の感染予防・重症化予防の視点から、機能性食品成分の最新エビデンスを解説しました。

はじめに

現在、COVID-19対策として、原因ウイルス(SARS-CoV-2)への暴露機会を減らす予防策(マスク着用や手指消毒、3密回避など)が実践され、同時にワクチン接種も進められています。

一方、今回のCOVID-19も含む新興感染症対策としては、宿主であるヒト側におけるウイルス感染への抵抗性を高める対策も重要になります。

例えば、ビタミンやミネラルといった「必須微量栄養素」の摂取は、免疫能の維持に文字通り必須です1)。また、機能性食品成分には、抗ウイルス作用・免疫調節作用・抗炎症作用を有する成分があります。

そこで、適切な食事あるいはサプリメントの適正使用により、機能性食品成分を摂取することが積極的なCOVID-19対策につながります2,3)

ビタミンC

COVID-19の発症および重症化の予防を意識した時、取り上げるべき栄養素の一つにビタミンCが挙げられます。

COVID-19重症例はビタミンC欠乏

ビタミンCは、抗酸化作用に加えて免疫調節作用も有しており、COVID-19罹患リスクを低減します。重症感染症に罹患すると、ターンオーバーが亢進し、その結果としてビタミンCが枯渇します。スペインや米国で行われた研究では、COVID-19重症患者における血中ビタミンCの低値が見出されました4,5)

そこで、COVID-19重症例に対する治療法の一つとして、高濃度ビタミンC点滴療法の静脈内投与が行われています6)

COVID-19に対するビタミンC静注:症例集積

COVID-19の重症例において、ビタミンC静注の有用性を示唆する複数の症例が報告されています7)

なお、COVID-19重症例の治療としての高濃度ビタミンC静注によるシュウ酸腎症が2例報告されているため、注意が必要です8)

ビタミンD

次に、ビタミンDとCOVID-19の関連性についてお話しします。

①ビタミンD低値はCOVID-19罹患の危険因子

ビタミンD低値は、COVID-19の感染や重症化のリスクを高めます3)。例えば、5報5,266人を対象にしたメタ解析では、COVID-19感染者は非感染者に比べ、血中ビタミンD値が有意に低いことが示されました9)。(図1)

<図1>COVID-19患者はビタミンDが有意に低値:5,266人のメタ解析による


②ビタミンD低値とCOVID-19の予後

複数の観察研究において、血中ビタミンDが低値であるとCOVID-19の予後が不良であることが示されています3)。例えば、7報945人を対象にしたメタ解析によると、ビタミンD低値群ではビタミンD充足群に比べて、死亡率が2.09倍と高い傾向でした9)

③レニン-アンジオテンシン系でのビタミンDによるCOVID-19重症化抑制機序

ビタミンDは、レニン-アンジオテンシン系(RAS)での重要な調節因子であり、COVID-19の重症化リスク低減に作用します3)

ビタミンDの投与は、SARS-CoV-2が肺胞上皮細胞のACE2に結合することによって生じる「ACE2活性の低下」「ACE活性の上昇」「アンジオテンシンIIの増加」といった作用を抑えることで肺血管攣縮を抑制し、COVID-19の重症化リスクを低下させます3)。(図2)

<図2>ビタミンDによるCOVID-19の感染リスク低減・重症化予防の作用機序


亜鉛

3つ目に取り上げるのは、ビタミンC・ビタミンDとともに重要な役割を担う亜鉛です。

①亜鉛はRNAウイルス複製を阻害する

コロナウイルスなどのRNAウイルスに対する亜鉛の抗ウイルス作用は、RNAウイルスを複製する酵素である「RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)」の阻害によって、ウイルスの複製を阻害することによります10)

COVID-19の高リスク群は亜鉛不足

肥満や糖尿病患者、高齢者などはCOVID-19の高リスク群であり、かつ亜鉛が欠乏している傾向にあります。加齢に伴う免疫能の低下は免疫老化(immunosenescence)として知られており、亜鉛の利用効率が低下しています。

そのほか降圧利尿剤、ACE阻害薬、ARB、スタチン剤といった医薬品の服用でも、血中亜鉛の低下を生じます3)

③亜鉛不足とCOVID-19の予後不良の相関

亜鉛不足は、COVID-19重症患者・予後不良COVID-19患者を対象にした解析により、COVID-19重症例では亜鉛不足であること、また、亜鉛欠乏例では予後不良となることが報告されています11,12)

④亜鉛低値は日本人COVID-19重症化因子

日本人COVID-19患者の解析でも、血中亜鉛の低値がCOVID-19重症化因子であることが示されました13)

⑤亜鉛によるCOVID-19症状改善効果

高用量の亜鉛塩トローチの摂取後24時間以内にCOVID-19の症状軽減を認めたとする4症例が、米国から報告されています14)

⑥治療としての「亜鉛補充ガイドライン」

米国では2020年初期の段階で、COVID-19治療アルゴリズムに亜鉛投与が含まれており、治療の一環として実施されていました3)。米国での多施設コホート研究では、亜鉛+イオノフォア(亜鉛の細胞膜透過性を亢進させる物質のこと)の投与により、COVID-19患者の院内死亡率が24%低下したということです15)

プロバイオティクス

続いてプロバイオティクスと感染症の関連性について取り上げたいと思います。

①プロバイオティクスと呼吸器感染症

プロバイオティクスによるウイルス性呼吸器感染症の罹患率低下および罹病期間短縮効果が見出されており、消化管(腸内細菌叢)と呼吸器(肺)との間で相互作用があるのではないかと考えられています。

2015年のコクランでのメタ解析では、プロバイオティクスが急性上気道感染症のリスクを47%減少することが示されました16)

②粘膜免疫における分泌型IgAの重要性

SARS-CoV-2の感染初期病巣は、上皮細胞を覆う粘液であり、感染防御において粘液中の分泌型IgAが大きな役割を果たしています。

欧米人は日本人を含めたアジア人と比べて、遺伝的IgA欠損症が高率に認められます。この相違点が、日本と欧米におけるCOVID-19の死亡率に差を認める一つの要因ではないかとの考えもあります17)

COVID-19とディスバイオシス

SARS-CoV-2ウイルス感染により、消化管のACE2がダウンレギュレーションされることで、腸で炎症が起こり、消化器症状が生じます。

日本における入院を要したCOVID-19 症例2,600 例の解析によると、下痢が約1割にみられました3)。これに対し、COVID-19患者の半数が消化器症状を示したという報告があります3)

また、中国からの小規模な症例報告では、COVID-19患者でラクトバチルスとビフィズス菌の減少を伴うディスバイオシスが認められました18)

オメガ3脂肪酸

最後に、オメガ3脂肪酸とCOVID-19との相関に触れておきたいと思います。

COVID-19でのオメガ3脂肪酸の有用性

米国にて、EPA投与によりCOVID-19の罹病期間が短縮されたとの報告がなされています19)。また、米国での予備的な臨床研究において、オメガ3指数(Omega-3 Index,O3I)が高いとCOVID-19での死亡率が低い傾向にあるという負の相関が示唆されました20)

さらにCOVID-19重症例において、オメガ3脂肪酸(EPA 400mg+DHA 200mg)の有用性を示した臨床試験が報告されています21)

②嗅覚障害に対するオメガ3脂肪酸の推奨

COVID-19患者の5%から85%に嗅覚障害が認められます22)

英国の専門家パネルによるコンセンサス・ガイドラインでは、オメガ3脂肪酸サプリメントはCOVID-19合併症としての嗅覚障害に関する検証は行われていないものの、嗅覚障害に対する一定のエビデンスが示されていると結論付けています23)

おわりに

本稿で示した機能性食品成分のエビデンスは、COVID-19に対する補完療法として、外挿できます(図3)。

今後も新興感染症に対する予防法、セルフケアにおける機能性食品成分含有サプリメントの活用も選択肢として考慮すべきでしょう。

<図3>COVID-19対策のためのサプリメントの活用法





<参考文献>

1) Wintergerst ES, Maggini S, Hornig DH.  Contribution of selected vitamins and trace elements to immune function. Ann Nutr Metab. 51:301-23,2007.

2) 蒲原聖可. 新型コロナの栄養療法 ─最新エビデンスに基づく予防法と後遺症対策. 医学と看護社,2022年.

3) 蒲原聖可. COVID-19の感染および重症化の予防のための機能性食品成分:臨床エビデンス・アップデート2022. Functional Food Research.18:34-42,2022.

4) Chiscano-Camón L, Ruiz-Rodriguez JC, Ruiz-Sanmartin A, et al. Vitamin C levels in patients with SARS-CoV-2-associated acute respiratory distress syndrome. Crit Care. 24:522, 2020.

5) Arvinte C, Singh M, Marik PE. Serum Levels of Vitamin C and Vitamin D in a Cohort of Critically Ill COVID-19 Patients of a North American Community Hospital Intensive Care Unit in May 2020: A Pilot Study. Med Drug Discov. 8:100064,2020.

6) Zhao B, Liu M, Liu P, et al. High Dose Intravenous Vitamin C for Preventing The Disease Aggravation of Moderate COVID-19 Pneumonia. A Retrospective Propensity Matched Before-After Study. Front Pharmacol. 12:638556, 2021.

7) Hiedra R, Lo KB, Elbashabsheh M, et al. The use of IV vitamin C for patients with COVID-19: a case series. Expert Rev Anti Infect Ther. Aug 1:1-3,2020.

8) Fontana F, Cazzato S, Giovanella S, et al. Oxalate Nephropathy Caused by Excessive Vitamin C Administration in 2 Patients With COVID-19. Kidney Int Rep. 5:1815-1822, 2020.

9) Bassatne A, Basbous M, Chakhtoura M, et al. The link between COVID-19 and VItamin D (VIVID): A systematic review and meta-analysis. Metabolism. 154753,2021.

10) te Velthuis AJ, van den Worm SH, Sims AC, et al. Zn(2+) inhibits coronavirus and arterivirus RNA polymerase activity in vitro and zinc ionophores block the replication of these viruses in cell culture. PLoS Pathog. 6:e1001176,2010.

11) Allard L, Ouedraogo E, Molleville J, et al. Malnutrition: Percentage and Association with Prognosis in Patients Hospitalized for Coronavirus Disease 2019. Nutrients. 12:3679,2020.

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19) Berger AA, Sherburne R, Urits I, et al. Icosapent Ethyl - A Successful Treatment for Symptomatic COVID-19 Infection. Cureus. 12:e10211,2020.

20) Asher A, Tintle NL, Myers M, et al. Blood omega-3 fatty acids and death from COVID-19: A pilot study. Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. 166:102250, 2021.

21) Doaei S, Gholami S, Rastgoo S, et al. The effect of omega-3 fatty acid supplementation on clinical and biochemical parameters of critically ill patients with COVID-19: a randomized clinical trial. J Transl Med. 19:128,2021.

22) Izquierdo-Dominguez A, Rojas-Lechuga MJ, Mullol J, et al. Olfactory Dysfunction in the COVID-19 Outbreak. J Investig Allergol Clin Immunol. 30:317-326,2020.

23) Hopkins C, Alanin M, Philpott C, et al. Management of new onset loss of sense of smell during the COVID-19 pandemic - BRS Consensus Guidelines. Clin Otolaryngol. 46:16-22. 2021.

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