標準治療の3本柱のうちの一つ、抗がん剤治療。がんに罹患したことのある方なら誰しも検討されたことがある治療法だと思います。でも抗がん剤に怖いイメージがある方は多いと思います。その副作用が壮絶なことは一般的にも非常に有名です。吐き気や腹痛、下痢などの消化器症状がまず出てお食事が喉を通らなくなったり、倦怠感でお身体がだるくなったり。抗がん剤の休薬期間にそういった症状が少し改善してきたかと思ったら、貧血などの骨髄抑制が現れ、感染症に非常に気をつけないといけなくなったり、そのうちに髪の毛が抜けてきたり。幸いにも治療がうまくいき、急性期を切り抜けても油断は大敵です。抗がん剤の毒性がじわじわと体を蝕み、心臓の機能が低下して心不全や、手先に痺れなどの末梢神経障害を発症するかもしれません。中には白血病などの二次がんを発症してしまう方もいらっしゃいます。
インスリン強化療法ってご存じですか?
標準治療の3本柱の一つである抗がん剤治療。強烈な副作用があり、患者さんにとって苦痛の連続であることは有名です。それでもがんに克つために選択される治療です。
抗がん剤の期待される効果を維持しつつ、ほとんどの副作用が回避できることができたら?
今回の記事では、世界で多くの統合医療の医師が使用しているインスリン強化療法についてご紹介します。
インスリン強化療法ってご存じですか?
抗がん剤治療がそんな辛い治療だとしても、患者さんがそれを選択するのは、がんに克つため、つまりがんで死ぬのを防ぐためです。抗がん剤の治療の副作用がいくら過酷で辛いものでも、命には変えられないからです。
でも、もしもそのような副作用が出ない抗がん剤治療があるとしたら?抗がん剤の種類のことではありません。基本的にどんな抗がん剤でも、この方法を使えば効果は普通以上に強く、副作用は全くないか、1日か2日だけ味覚が少し変わる程度。吐き気も、倦怠感も、抜け毛もありません。そんな夢のような抗がん剤治療があるのです。残念ながら日本ではごくわずかな医師しか行っていませんが、世界では多くの統合医療の医師がそれを使って患者さんを助けています。それがIPT (insulin potentiation therapy)、つまりインスリン強化療法です。
IPTの効果を実感!
IPTについてご説明する前に少しだけ、私がどうしてこんなにIPTを押しているかご説明させてください。
IPTを知ったきっかけ
私が初めてIPTという治療法の存在を知ったのは、2017年、点滴療法研究会の主催で開催された関西フォーラムでのことです。奥野病院院長の奥野幸彦先生がご講演されており、その効果と副作用のなさに魅了されたことを今でもよく覚えています。すぐにIPTを勉強したいと思いましたが、その年のメキシコでのセミナーは勤務の都合で参加できず、翌年、翌々年はアメリカ留学中でビザの関係で断念、今年こそはと思っていた2020年はコロナの影響で学会自体流れてしまいました。
祖母の治療としてIPTを選択
そんなこんなでなかなか縁がなかったIPTですが、今年の8月、祖母がリンパ腫を発症した際、市立病院の血液腫瘍科の先生から「高齢なので治療は出来ない」と言われ、真っ先に祖母に受けて欲しいと思ったのがIPTでした。
9月頭からIPT治療を開始し、当初11,800U/mlあった腫瘍マーカー(IL-2R)の値は、なんと10月頭には3,230U/ml、直近では1,600U/mlと劇的に減少しています。もちろん脱毛や下痢といった抗がん剤の目立った副作用は一切ありません。
私たち家族は、腫瘍マーカーが下がったり、祖母が食べられるご飯の量が増えたり、寝たきりから車椅子に座れる様になったりADLが改善するごとに、嬉しい驚きを隠せませんが、奥野先生はこんなものだよと言った感じで想定内の様です。看護師さんも「皆様こんな感じで元気になるんですよ」と仰います。
当初は月単位で状態が悪くなると言われ、実際IPTを始めるまではそうなっていた祖母が、最近は信じられないくらい良い経過を辿っています。もしも再び市立病院の腫瘍科の先生に診ていただくことがあれば、きっと先生もIPTの効果に驚かれるはずですが、腫瘍科の先生には祖母に行っていただける有効な治療法の選択肢はございませんので、祖母が再び先生に診ていただく機会はないでしょう。
IPTって?
お待たせしました。IPTについてご説明いたします。IPTはインスリンを使い、その後抗がん剤や天然の抗がん作用のある物質を投与することで、抗がん物質をがん細胞に効率よく届ける方法です。
IPTの歴史
もともとは1920年代にメキシコのドナード・ペレツ・ガルシア医学博士が、梅毒の治療薬として使用されていたヒ素の前にインスリンを投与することで、毒薬であるヒ素の投与量を抑えて患者への負担を軽減しつつ、梅毒への取り込みを増やして病気を治療できることを発見しました。
さらに1930年代から、同様の方法をがんの治療に応用し始め、乳がん、肺がん、前立腺癌など、多くの種類のがんに効き目があり、抗がん剤を使わざるを得ない時に非常に有効であることがわかりました。
インスリン投与のメリット
インスリンを抗がん剤の前に投与するメリットは、がん細胞が正常細胞の6倍のインスリン受容体と10倍のIGF-1受容体があることに関連しています。これはそれぞれがん細胞の燃料と増殖を支える受容体です。インスリンがインスリン受容体に作用することで、細胞膜の透過性が上がり、細胞内に取り込まれる抗がん剤が増えます。またIGF-1受容体に作用することで、細胞分裂が増え、また抗がん剤への感度が亢進します。IPTの素晴らしいところは、活発に分裂する悪性度の高いがんほど効くところですが、細胞分裂を誘発するインスリンは、そういった意味でも抗がん剤の効果を高めます。
これらの理由から、インスリンを抗がん剤の前に投与することで、通常の10%~20%というごく少量の抗がん剤でも、大きな効果を得ることができます。そして使う抗がん剤自体が少量なので、副作用は通常よりはるかに少ないのです。
ジョージワシントン大学の研究では、メトトレキサートという抗がん剤を乳がん細胞に投与すると、がん細胞を殺す効果がなんと1万倍も高くなるということが明らかになっています。もちろん他にも、食道がんや肺腺癌での抗がん剤の効果を高めたという研究もあります。
また抗がん剤治療には付き物の「耐性化」も、IPTにとっては怖いものではありません。もちろんIPTでも耐性化が起こることはあります。がんは単一の細胞の集まりではないので、抗がん剤によって大部分の細胞が死んでも、死なずに生き残るがん細胞があるためです。この生き残りの細胞が再び増殖するのがいわゆるがんの耐性化です。しかしそんな時は抗がん剤の種類を変えればいいだけです。IPTでは副作用がほとんどないため、様々な抗がん剤治療を長期間で継続することができ、耐性化にも対応できます。
IPTの方法
最後にIPTの具体的な方法です。治療はできれば最初の1ヶ月は週2回で、8回程度集中して行うのが良いとされています。その後は週1回に減らし、腫瘍マーカーなどを見ながら頻度を下げていきます。
治療の前日は、夜中12時から絶食で当日の朝食も抜き、血糖値を安定させます。治療前にインスリンを投与して十分に血糖が下がったことを確認し、少量の抗がん剤を投与します。
副作用は1日目もしくは2日目に味覚が少し変わる程度で、下痢や嘔気の副作用はあってもすぐに消えます。そもそもそれもほとんど起こらないようです。もちろん高濃度ビタミンC点滴など、他の治療と組み合わせるとさらに副作用は軽くなり、効果も上がることが期待できます。
終わりに
がん患者さんやそのご家族でIPTに興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、ぜひ奥野先生が書かれている本(AMAZON)や、西脇先生のYOUTUBE(youtube/西脇俊二動画チャンネル)をご覧ください。とてもわかりやすくまとめられています。
多くのがん患者さんの希望となるであろう、大きな効果とごくわずかな副作用を実現するIPTが日本で少しでも普及することを願っています。
※本記事は『統合医療でがんに克つVOL.150(2020年12月号)』にて掲載された「リオルダンクリニック通信19」の許可を得た上で一部調整したものです。
前田 陽子 (マエダ ヨウコ)先生の関連動画
同じタグの記事を読む