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ヴィーガンとタンパク質【前編】

前回より『JSOMウェブメディア』に寄稿させていただくことになった鈴木形成外科(京都)の鈴木晴恵です。私は2011年3月の東日本大震災に伴う原発事故をきっかけに安全な食について考えるようになり、あらゆる栄養学を学ぶ中でT・コリン・キャンベル博士の著書『THE CHINA STUDY』に出会いました。そして、健康の維持増進を実現する食事法は「PBWF(Plant Based Whole Foods:植物性の食材をなるべく精製しないで食べること)」と確信し、クリニックに栄養外来を開設しました。

薬に頼らず病気を予防・改善する方法の指導を行うと同時に、食のお手本を示すためのグルテンフリー&ヴィーガンのカフェ「CHOICE」を運営しています。

さて、今回は診療や講演の場でも多くいただく「ヴィーガンの食事ではタンパク質が不足しないのか」という質問にお答えしたいと思います。タンパク質は“肉や魚から摂取するもの”と思われがちですが、牛や馬・ヤギ・キリン・鹿・ゾウなどの草食動物は草しか食べていません。彼らのたくましい筋肉はどのように作られるのでしょうか?これこそ、緑の葉っぱから十分なタンパク質が摂れることを証明していると言えます。

結論から申し上げると、タンパク質は植物性の食品から摂取することが可能であり、さらには健康にとって有益な栄養素も一緒に摂取することができます。一方、動物性食品からタンパク質を取り入れると、過剰摂取による弊害や健康を害する要素を持つものまでも一緒に摂取してしまう可能性があります。

割合と質を見極める 

「肉・魚・鶏・卵・乳製品には植物性食品よりも多くのタンパク質が含まれている」という考え方が一般的となっていますが、実際はプラントベースの食品全てが動物性食品と同量のタンパク質を含んでいます。植物性と動物性のタンパク質量が同じなんて、意外でしょうか?

食品栄養成分表を見ると、畜肉に比べて野菜に含まれる100g当たりのタンパク質量はたしかに少ないです。しかし、そもそも栄養素の含有量を水分量が異なる食品間で比較すること自体にあまり意味がありません。

三大栄養素(タンパク質・脂質・糖質)が生み出す総カロリーのうち、タンパク質が産生するカロリーが何%を占めるかで比較すると、畜肉に含まれるタンパク質の割合はわずかであり、カロリーの多くは脂質から産生されていることがわかります。一方で、ブロッコリーや小松菜などの緑黄色野菜を始めとする植物性食品はタンパク質が多くの割合を占めています。

適切なタンパク質必要量とは

では、健康のために必要なタンパク質量とはどれくらいなのでしょうか。1日のタンパク質推奨摂取量は、一般の人で体重1キロあたり0.8g、アスリートでは最大1.6~1.8gとされています。また、ざっくりですが女性であれば1日あたり約46g、男性は56gのタンパク質を必要とします。このように聞くと「必要なタンパク質量を頑張って摂取しなければいけない」と思われるかもしれません。

ところが、ある研究では平均的な人で毎日90~135gのタンパク質を摂取していて、場合によっては200gも摂っていると報告されています。過剰なタンパク質は脂肪として蓄積される余分なカロリーになるばかりでなく、体内を酸性の環境に傾かせます。その結果、過剰な酸を中和するために骨からカルシウムが漏出され、酸とカルシウムの混合液は腎臓でろ過されたのち濃縮され尿中に排泄されることになります。骨からカルシウムを漏出させることで、具体的には骨粗しょう症や痛風を起こしたり、炎症や慢性疾患、腎臓の損傷、免疫系の機能までをも低下させるリスクが上昇してしまいます。

「必須アミノ酸」の問題

人体は、水と脂肪を除くと約17%がタンパク質でできており、骨、筋肉、軟骨、皮膚、髪、爪、免疫細胞、酵素、さらには血液中で酸素を運ぶヘモグロビンも構成しています。タンパク質は体の全ての細胞と臓器にとって不可欠です。皆さまもご存知のプロテインは、ギリシャ語で“最も重要”という意味をあらわす言葉「プロトス」に由来することからも、体が必要とするタンパク質を摂取することはとても重要であることが窺えます。

人体を構成する様々なタンパク質は、20種類のアミノ酸が様々な個数で組み合わされています。そして、これらのアミノ酸はそれぞれ違う構造を持ち、それぞれ異なる機能を果たしています。20種類のアミノ酸のうち体内で合成できない9つは「必須アミノ酸」と呼ばれています。そのため、必須アミノ酸は食べ物から摂取する必要があります。この理由から、必須アミノ酸を全て含む“完全なタンパク質”と言われる肉・卵・乳製品を食べるのが健康に良い、という考えが浸透しています。

たしかに、必須アミノ酸が一つでも足りなければ人体に必要なタンパク質は作ることができません。しかし、動物のタンパク質を摂ればそのまま吸収されて人体の構成要素になる訳でもありません。摂取したタンパク質は、一旦アミノ酸にまで分解されて消化管から吸収されます。その後、ようやく人体内に必要なタンパク質に再構築されます。植物からでも毎日食べる様々な食品を組み合わせれば、必須アミノ酸は不足なく摂取できるのです。

今回は、プラントベースの食事からでも不足なくタンパク質を摂取できること、必ずしも一つの食品から必須アミノ酸全てを摂取する必要はないこと、そして毎日食べる様々な食品の組み合わせにより必須アミノ酸も不足なく補えることをお話ししました。タンパク質については重要かつお伝えしたい内容が沢山あるので、後編では動物性食品からタンパク質を摂取する場合のリスクについてお話しいたします。是非、次回も引き続きお読みいただければと思います。




※『ヴィーガンとタンパク質【後編】』は、5月28日(金)配信予定となります。お楽しみに!

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