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スーパー抗酸化物質「α-リポ酸」の多彩な働き

この記事の執筆者

ごきげんクリニック浜田山

ビタミンC点滴療法や栄養療法のメッカとも言えるリオルダンクリニック(アメリカ)へ研修のため留学。留学中、米国抗加齢医学会の専門医試験に最年少で合格。また米国で開催される国際学会に多数出席し、世界の機能 ... [続きを見る]

α-リポ酸はチオクト酸としても知られる、硫黄を含有した脂肪酸です。

元々私たちの体の全ての細胞の中や食物に含まれる天然由来の物質で、エネルギー代謝の改善はもちろん、強力な抗酸化作用や抗がん作用、肝臓に対する保護効果や重金属などを除去するキレーションの効果、肥満や糖尿病、動脈硬化に対する効果などが示されています。

そのため、アメリカでは非常に人気のあるサプリメントの1つです。日本ではこれまで医薬品として使用されていましたが、2004年からサプリメントとしても認められるようになりました。

今回は、がん患者さんはもとより、未来のがんを予防したい方や現在の健康を維持したいという方にも是非生活に取り入れていただきたい栄養物質α-リポ酸についてご紹介いたします。 

ビタミンCと似ている?α-リポ酸の働き

不思議なことに、α-リポ酸の働きの多くはビタミンCにとても似ています。フリーラジカルに対抗する抗酸化作用、炎症を抑える作用、重金属などの毒物を排出する作用があり、例えば致死的なキノコ中毒による瀕死の急性肝機能障害患者の奇跡的な回復の症例は、ビタミンCの毒キノコや毒グモ咬傷、農薬による中毒に対するビタミンCの症例を彷彿とさせます。

α-リポ酸の働きはそれだけではありません。ウイルスの増殖を抑えたり、糖尿病・白内障の予防や心臓発作・脳卒中後の組織の壊死の予防、さらにリンパ球を助けて免疫システムを強化したり、放射線や化学療法の副作用を抑える効果も有します。

その上、大変興味深いのはα-リポ酸も抗炎症性経路であるNrf2経路の活性化を通し、抗炎症作用を発揮します。また、少し専門的ですが核内因子κBの活性化を阻害すること、内皮の一酸化窒素合成酵素(eNOS)のPKB/Akt依存性リン酸化とeNOSに触媒されたNO(一酸化窒素)生成を増やし、血管の拡張を促すことも報告されています。

ここまででも十分面白く感じられるかもしれませんが、驚くのはまだ早いです。なんと、α-リポ酸にもビタミンCと同様、細胞内へのブドウ糖の取り込みを促進させる作用があるのです。

α-リポ酸はインスリンシグナル伝達カスケードを活性化し、GLUT4※1の細胞膜の発現を増やし、ブドウ糖の取り込みを増加させます。こうした仕組みを鑑みると、まるでビタミンCの効果をみているように感じられます。


※1:
グルコースを細胞に取り込む輸送体

エネルギー産生効果

また、α-リポ酸は細胞レベルでブドウ糖をエネルギーに変換するための補酵素として役立ち、糖質(燃料)がミトコンドリア(発電所)に入るのを助けます。

α-リポ酸が十分にあれば、細胞内で燃える燃料を大いに増やすことができ、細胞の成長や代謝、組織の修復などに使うエネルギーを豊富に得ることができると考えられています。

抗酸化物質のリサイクル効果

α-リポ酸は食事から吸収されてからα-リポ酸として働き、還元型のデヒドロリポ酸に変換されます。試験管内の実験では、デヒドロリポ酸はビタミンCやCoQ10、グルタチオンなど重要な抗酸化物質を還元して再生し、ビタミンCやCoQ10を再生することによって間接的にビタミンEも還元します。

これらのレドックス(酸化還元)サイクルは、細胞の健康な機能を維持するためにも非常に重要です。

グルタチオンの増加

α-リポ酸はグルタチオンを再利用できる形に還元するだけでなく、細胞内のグルタチオンのレベルも直接増加させます。

動物実験では、α-リポ酸の投与によって以下の変化が確認されており、これらによってグルタチオンの増加が起こっていると考えられています。

  • グルタチオン合成の律速酵素※2であるγグルタミルシステインリガーゼ(γ-GCL)の発現がアップする
  • グルタチオン合成に必要なアミノ酸であるシステインの細胞への取り込みが増える



※2:反応速度を決める触媒のこと

α-リポ酸は自分で産生できる“スーパー抗酸化物質”

素晴らしいことに、α-リポ酸はビタミンCと違って、私たちの体の全ての細胞で作ることができます。健康な細胞は十分な量のα-リポ酸を産生することができます。ところが、年齢とともにその産生量は徐々に減少し、慢性的な病気になるとα-リポ酸の値はさらに低下してしまう可能性があります。

また、α-リポ酸の抗酸化物質としての強みの1つとして、水と油の両方に溶ける性質があります。ビタミンCは一般的に水溶性で血液などに溶け、ビタミンEは脂溶性なので脂肪に溶けますが、α-リポ酸は両溶性であることから理想的な抗酸化物質と言えます。

さらに血液脳関門も通過することが知られており、脳脊髄液や血液、体のあらゆる臓器のあらゆる細胞においてフリーラジカルによるダメージを防ぎます。

もちろん、到達した細胞においてビタミンCやビタミンE、グルタチオンなどを再生する能力やミトコンドリアでのエネルギー産生を促進する能力も発揮します。

α-リポ酸の抗がん作用

加えて、α-リポ酸にはがんに対抗する働きもあります。α-リポ酸はがんの発生と促進の両方の段階を阻害します。細胞レベルでは、がん細胞のみに選択的に細胞毒性を発揮してアポトーシスを増加させたり、細胞分裂の停止や腫瘍細胞の成長を阻害する物質であることが報告されています。

具体的には乳がん、卵巣がん、結腸直腸がん、肺がん、白血病などの細胞の生存率と増殖を低下させ、甲状腺がんの細胞では転移に必要な移動などの段階を阻害しました。

また、化学療法やその他の治療との相乗効果も示されています。これは驚くべき症例報告ですが、α-リポ酸の静脈注射(300〜600mgを週2回)と、低容量ナルトレキソン(4.5mgを1日1回)の投与、健康的なライフスタイルプログラムで治療された膵がん患者4名の長期生存について報告されています。

なお、このプログラムはリンパ腫の患者さんにも適応されており、こちらも良好な結果となっています。 他には放射線治療や化学療法の副作用を軽減する効果も期待できます。

サプリメントで補給する必要性

α-リポ酸はレバーやほうれん草、にんじんなどに含まれていますが、食事のみから十分な量を補うことは、残念ながら現実的に不可能です。例えば100mgのα-リポ酸を補うには、ほうれん草を350kgも食べなければいけません。

その際、一緒に働くビタミンCやB群、A・D・E・K、セレン、マグネシウムやCoQ10などのビタミンや抗酸化物質とバランスよく補充することが大切です。

また、α-リポ酸とビオチンの化学構造が似ているため、これはラットの研究ではありますが、高用量α-リポ酸の投与でビオチンの細胞への取り込みに競合し、ビオチン依存性酵素の活性が30~35%下がったと報告されています。

α-リポ酸の種類

α-リポ酸のサプリメントの種類としては、以下の2種類に分かれます。

①立体異性体のR型とS型が両方入ったラセミ体
②天然型で活性型のR型のみ含むもの

体内で作られ、補酵素として糖代謝などに関わるのは②R型のみで、サプリメントとして内服後の血中濃度のピークはラセミ体よりも40〜50%高いと報告されています。また、R型の液体タイプのサプリメントではさらに吸収率が良く、血漿で安定しています。

R型のサプリメントはラセミ型サプリメントより高価になりますが、ラットの実験ではR-リポ酸はS-リポ酸よりも以下の点に関して、より効果的であったと報告されています。

  • 白内障の予防
  • 骨格筋でのインスリン刺激性グルコース輸送と代謝の強化

内服のタイミングについては、空腹時の方がより吸収しやすいことが知られています。食物と一緒に摂るよりも空腹時に内服した方が、血漿リポ酸のピーク濃度が約30%、全体的な血漿リポ酸濃度が約20%増加します。

α-リポ酸は安全か

一般的にα-リポ酸は大変安全であり、高用量での投与の場合も深刻な副作用はほとんど確認されていないことがわかっています。

糖尿病性末梢神経障害の治療で1日600mg静注を3週間、もしくは1日1,800mgで6ヶ月間や1,200mgで2年間経口摂取しても深刻な有害作用は生じませんでした。

ある妊婦の後ろ向き観察研究では、妊娠10~30週から37週まで中断なく1日600mgのα-リポ酸(ラセミ型)を毎日経口補給しても、母親やその新生児に何の有害作用もなかったことが報告されています。





本記事は『統合医療でがんに克つVOL.148(2020年10月号)』にて掲載された「リオルダンクリニック通信17」を許可を得た上で一部調整したものです。

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