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ヨーロッパで普及する「温泉療法」ー温泉水の侮れない効果とは?

この記事の執筆者

ごきげんクリニック浜田山

ビタミンC点滴療法や栄養療法のメッカとも言えるリオルダンクリニック(アメリカ)へ研修のため留学。留学中、米国抗加齢医学会の専門医試験に最年少で合格。また米国で開催される国際学会に多数出席し、世界の機能 ... [続きを見る]

新型コロナウイルスは今や世界中で認知されていることに、反論される方はいらっしゃらないでしょう。しかし、3年前の2020年2月末時点では「何やら中国で大変なことになっているウイルス」と、どこか他人事な空気感が日本に漂っていました。

この時、私がスイスで受けたセミナーの内容は前々回の記事でご報告いたしましたが、帰りに同国の有名な温泉保養地、バーデンとその隣町であるバートツァルツァッハにある温泉複合施設を訪れました。

今回は統合医療の観点から、その時の体験をご紹介させていただこうと思います。

ヨーロッパで古くから用いられてきた温泉療法

スイス随一の温泉地として有名なバーデンの歴史は、ローマ時代にまで遡ります。そもそも「バーデン」という言葉はドイツ語で温泉という意味で、かつてローマの兵士が傷を癒した温泉地には、ゲーテやニーチェ、ヘルマン・ヘッセといった歴史上の人物も好んで足を運んでいました。

イタリアン・テルメ(イタリアの温泉医療)に以前から興味と憧れがあった私は、バーデンがチューリッヒから特急で15分という良い立地にあることを知りました。イタリアではなくスイスになりますが「同様のヨーロッパの温泉療養施設の見学ができるかもしれない」と、迷うことなくバーデンに立ち寄ることを決めたのでした。

イタリアでは保険適応に

ここで私が以前から憧れていたイタリアのテルメについて、少しご説明したいと思います。実はイタリアは日本に負けずとも劣らない“温泉大国”であることをご存知でしょうか。なんと、効能や適応にあった温泉療法が医師により処方され、これが国民健康保険でカバーされるほど!

また、日本の専門医制度に相当する「温泉療法科」の専門医が存在し、患者さん一人ひとりにあった温泉療法を処方します。例えば、一言で温泉療法と言っても、温泉に入浴する温泉療法から温泉を飲む「飲泉」、温泉に長期間浸した火山泥を体に塗る療法や、洞窟で温泉のミストを浴びる療法など様々です。

この時、入浴する時間や温泉の温度・タイミング・飲泉療法の場合は飲む量や回数、何回に分けて飲むかまで、臨床試験の結果に基づいて医師が細かく指示します。他にも水圧による体のマッサージや温泉の吸入、水中運動療法など、テルメでできることは多岐に渡ります。

日本で温泉というとリラックス目的で癒されに行くことをイメージされる方も多いかと思います。イタリアやスイスのテルメも美しい場所にあることが多いようで、転地療法※1や気候療法※2、さらに場所によっては森林療法も兼ねた効果が期待できそうです。


※1:住み慣れた住居を離れ、別の場所で療養し、治療・休養を行う。
※2:日常生活とは異なる気候の場所で治療・休養を行う。

スイスにおける統合医療のこれから

イタリアにおいて温泉療法が保険適応となる一方、スイスでは温泉療法自体は保険適応となっていません。しかし、2009年の国民投票によってホメオパシーや中国伝統医学、アーユルヴェーダ、植物療法などが医療保険の適応となる法案が可決されたことを機に、これらが国家資格となりました。つまり、これらの資格試験に合格することで患者さんに保険診療として提供できるようになったのです。

このような背景も手伝い、スイス国民の約半数が統合医療を行う病院を好み、また、約半数の病院では実際に統合医療が行われているというアンケート結果があります。なかでもホメオパシーは最も人気で、その診療と投薬にかかる医療費は年間8千万フラン(約87億円)にのぼり、しかも増え続ける一方とのことです。

ドイツのとある保険会社の調査によると「スパを活用することで病気による欠勤が60%減少、処方薬の使用が66%減少し、長期にわたる身体的・精神的・感情的な改善がみられた」と報告されています。これはすなわち、温泉療法には健康増進や疾病予防などの一次予防効果だけでなく、疾患の増悪予防やリハビリ・合併症予防といった三次予防の効果も期待できるということだと思います。

温泉療法が効く理由

私が今回訪れたバーデンの温泉水に期待される主な効能として、以下が挙げられています。

  • 自律神経調節異常
  • 慢性の変性退行性疾患
  • リウマチ
  • 運動器系疾患
  • 呼吸器系
  • 耳鼻咽喉科系
  • 消化器系
  • 婦人科系 など

これらに効くとされる理由は、おそらく第一に温泉やサウナに入り汗をかくことによるデトックス効果でしょう。汗をかくことで、重金属をはじめとする無機毒素から農薬や溶剤、プラスチックなどの有機毒素まで、幅広い有害物質を体外に排出することができるためです。

さらにミネラル豊富な温泉水を浴びることで、微量ではあるもののミネラルを皮膚から吸収できます。もちろん飲泉によって直接内服することもできますが、とりわけお腹を下しやすい方の場合は経皮吸収が安全で効果的です。体の過酸化の治療にもなりますし、徒手療法としてのマッサージやそれによる血流の促進、加えてリラックスすることで交感神経と副交感神経のバランスを改善させることもできます。

実際に温泉療法による筋弛緩作用により、痛みの閾値が上がり痛みに強くなったり、ストレスによって放出される炎症メディエーターの分泌を抑える効果、IL-1やLTB4という炎症と骨関節の軟骨の破壊を促進させる因子が低下することなども研究で明らかになっています。

スイス最大・バートツァルツァッハのスパを訪れて

バートツァルツァッハの小さな温泉街は中世の教会が点在する、絵画のような美しい風景の中にあります。夏にはハイキングやサイクリングコースもあり、街の中心部を散歩するのも楽しそうです。温泉水は塩の採掘中、1914年に偶然発見されました。

その中に、今回訪れたスイス最大の屋外複合温泉施設(温泉プール、サウナ、エステ、メディカルセンター、レストラン)があり、施設周辺にはジムを併設したメディカルウェルネスセンターや滞在用ホテル、リハビリクリニックなどがあります。

<図1>屋外温泉の様子1

メインとなる4つの大きな屋外温泉(図1,2)は、温泉といっても水着着用で男女混合、水温も日本の温泉と比べると低く、例えるなら「温水プール」のようなイメージです。打たせ湯や長椅子に寝そべって温泉を楽しめる水中ベッドもありましたが、2月でしたので肌寒く感じました。

施設にはもちろんキッズエリアもあり、家族で楽しめるようになってはいますが、大半のエリアは16歳以上専用で、ゆったりとした雰囲気の中で温泉を楽しむことができます。(図1)

<図2>屋外温泉の様子2

他にもスイミング専用プールや、趣向を凝らした60〜100度までの8種類のサウナ、塩素などの化学物質なしで入浴できる自然温泉プール(図3)、流れるプールやスチームバスなどがあります。

屋外温泉の周りには、天然の木材チップ・砂利・砂で敷き詰められた小道があり、その上を素足で歩き、足底の刺激ができるようになっていました。

<図3>自然温泉プール


私が面白いと思ったのは、ほとんど無重力で水に浮く体験ができ、リラックス効果が高いとされる「塩水浴」です(図4)。高い濃度の塩化ナトリウムの他に、硫酸マグネシウムや硫酸カルシウムなども豊富に含まれており、“
天然のエプソムソルト浴”が楽しめます。

<図4>塩水浴

また、解毒や脱酸に効果があるという電解フットバス(図5,6)は、効果がある理屈はわからなかったものの、とても人気があるようでした。

温泉の中ではウォーターマッサージや水中運動のクラスもありましたが、ドイツ語のみでしたので今回は断念いたしました。

現地では「テルメあるところに健康あり」という言葉があるそうです。この言葉通り、スイスの温泉地を尋ねることで、市民生活にテルメがいかに根付いているかを垣間見ることができました。

予防医学や統合医療を積極的に導入した温泉のウェルネスは、温泉資源が豊かな日本の「未来の統合医療」の1つの形として、大きな可能性を秘めているのではないかと感じます。

<図5>電解フットバス1

<図6>電解フットバス2






※本記事は『統合医療でがんに克つVOL.144(2020年6月号)』にて掲載された「リオルダンクリニック通信13」を許可を得た上で一部調整したものです。

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