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口腔から始めるデトックス

口腔内には様々な金属やプラスチック・セラミック製品が詰められていることは承知の通りだと思いますが、その中でも取り扱いに注意が必要な金属があります。それが水銀を含む「歯科用アマルガム」です。

今回はこの歯科用アマルガムの性質、歯科用アマルガムを除去する際の注意点、そして除去前に整えておかなければならない点についてご説明します。また、歯周病のコントロールと全身への影響についても、一部データを用いて示したいと思います。

「歯科用アマルガム」とは

「歯科用アマルガム」は重量比50%以上の水銀を含む合金で、現在では保険収載されていない充填材料です。しかし、除去に関しては保険適用されているため、安易に除去されているのが実情です。

歯科用アマルガムを除去する際に生じる水銀蒸気を吸い込む(皮膚吸収を含む)ことは非常に危険であり、その取り扱いに関しては多くの学会からも答申書が出されています。

通法で除去した場合、水銀蒸気は切削開始後すぐに作業環境評価基準である上限を超えるため、本来であればその環境下における作業は中止しなければなりません。歯科診療所における歯科用アマルガムの除去は、このような環境下で行われているということをまず初めに知っておく必要があります。

水銀の種類と体に与える影響

さて、水銀には「金属水銀」「無機水銀」「有機水銀」などと様々な形態があり、それぞれ代謝経路が異なります。

金属水銀は常温で唯一液体である金属で、その比重により重金属に分類されます。この重金属自体が全身に様々な影響を与えることがわかっています。

歯科用アマルガム合金は、この金属水銀と銀35%・錫9%・銅6%・亜鉛を混ぜ合わせた合金であり、水銀の重量当たりの比率は50%を超えます。金属水銀は肺、皮膚から吸収され血中へと運ばれます。血中に移行した水銀は血液脳関門(以下BBB)や血液胎盤関門(以下BPB)を容易に通過し、その末端である組織で無機水銀に変換されます。

変換された無機水銀は再度BBBおよびBPBを通過することができず、その組織に蓄積されていきます。そして、その末端である組織で様々な影響を与えるのです。

次に無機水銀ですが、経口摂取された無機水銀は腸管を経由してそのほとんどが排泄されます。最後に有機水銀ですが、こちらは腸管から吸収されて血中に移行します。その後、血中・各組織で脱メチル化反応、脱エチル化反応を受け、肝臓や脳に蓄積されるとともに一部は排泄されます。 

これら水銀の代謝に関して共通することがあります。それは腸内環境が整っていない場合、腸管循環を起こし体内から排泄されないということです。

重金属デトックス

それでは、重金属の排泄(デトックス)について考えてみましょう。デトックスをする際には、以下4つの重要な基本原則があります。

有害物質をできるだけ避ける
有害物質が入りにくい体にする
内側から解毒しやすい体にする
外からも解毒をする

に関しては大型魚の摂取量を控えたり、ワクチンに含まれる有機水銀を避ける、歯科用アマルガムを除去するという点で、は腸内環境や口腔内環境を整えることです。

はストレス管理や睡眠、ミネラル・栄養バランス、メチレーション、SNPが含まれます。そして最後のについて、ここでようやく外からデトックスを行うのですが、自然キレーションなど極力マイルドな方法でデトックスを行うことが重要です。

さて、当院にアマルガム除去に来院した患者の口腔内を診査すると、しばらく歯石除去をしておらず帯状に歯石が付着しており、歯周病が進んだ状態を放置していたり、虫歯を放置し歯冠が崩壊している方がいます。

このような状態で歯科用アマルガムを除去するとどうなるでしょうか?有害物質が体内に入りにくい体にするには、腸内環境 口腔内環境 炎症 を考慮する必要があります。腸内環境に関しては前述した通りですが、体内から排出される有害ミネラルは便中に75%、次いで尿中が20%、汗3%、爪および毛髪がそれぞれ1%となっています。

このことからわかるように、腸内環境が整っていないと体外への排出能はかなり低下してしまいます。特に女性では便秘の方の割合が高く、また高齢者では便秘薬を常用している方も多いため注意が必要です。

歯周病ケアが炎症のコントロールにつながる

次に、口腔内環境と炎症です。歯周病は成人の80%を占めると言われるほど罹患率が高い病気ですが、体内の炎症の1/3は歯周病が原因だとも言われています。炎症が起こると血管の透過性が上昇するため、それだけでも体内に有害物質が入りやすくなります。

よく“小火(ボヤ)”と例えられる歯周病ですが、5mmの歯周ポケットが28本全ての歯に存在すると総面積72平方センチメートル、ほぼ手の平1つ分の潰瘍があるのと同じ計算になります。このような軽度の歯周病のような炎症(micro-inflammation)が日常的に存在し続けることで、マクロファージからIL-6やTNF-αなどのサイトカインが分泌され、CRPが産生されます。

今回、歯石除去前後でのCRP産生の変化をYumizen M100 Banalyst遠心方式血液分析装置と、同じくその前後でのP.gingivalis菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス:以下P.g.菌と記載)の増減を、P.g.菌PCR検査機器「Orcoa」(0-999:菌未検出、1000-2999:菌検出、3000-5000:菌多検出)を用いて調べてみました。以下に2つの症例をご紹介いたします。

53歳女性の場合

上下顎全周に5mmを超える歯周ポケットが認められ、帯状の歯石が認められ口臭も強い。

歯石除去前の高感度CRP測定値では0.31mg/dL(Orcoaは未実施)であったが、歯石除去後4ヶ月経過後の高感度CRP測定値は0.13mg/dLまで低下し、歯肉の腫脹や発赤も改善され歯周ポケットも一部4mmを超える部位もあるが安定期といえる状態である。

42歳男性の場合

上下顎全周に5mmを超える歯周ポケットと帯状の歯石が認められ、歯肉出血も顕著であった。歯石除去前の高感度CRP測定値は0.15mg/dL、P.g.菌PCR値は4723(この値は装置独自の数値であり、実際のコピー数とは異なる)で、かなり菌数も多い状況であった。

歯石除去後2ヶ月経過後の高感度CRP測定値は0.09mg/dLまで低下し、P.g.菌PCR値も639まで改善していた。一部4mmを超える歯周ポケットは残るものの歯肉の腫脹や発赤が改善され、急性炎症も鎮静化し、安定期に移行していた。

まとめ

このように、歯周病をコントロールすることで全身の炎症をコントロールすることが可能であることを改めて確認できました。歯科用アマルガムを除去する前には最低限の歯周病コントロールを行うことが大切です。

今回、歯科用アマルガムについてその代謝を含めた性質、デトックスを行う上での注意点、そして除去前に整えておかなければならないことをご紹介しました。実際に歯科用アマルガムを除去する際には細かい術式や方法がありますが、今回は割愛させていただきます。

今後、少しでも多くの歯科医療従事者に水銀への曝露から身を守る環境を整備してもらいたいと願っています。

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