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「日本のライナス・ポーリング」もまた医者ではなかった!?金子 雅俊博士の業績

この記事の執筆者

新垣形成外科

(医)新美会 新垣形成外科 理事長。長崎大学医学部卒、医学博士。日本臨床カンナビノイド学会理事長。日本美容外科学会理事・専門医。日本抗加齢医学会専門医。日本統合医療学会専門医。日本形成外科学会専門医。

自己紹介

地域に貢献する、信頼できる医療を目指しています。

金子 雅俊先生は数々の輝かしい業績を残されました。中でも特筆すべきは「血液検査解析に基づいた個別化栄養療法」の開発です。これはつまり、オーダーメイド治療(個別化医療)に相当します。

こうした金子先生の業績についてまとめた論文が、学術誌『Nutrients』に承認されました。これは日本のオーソモレキュラー医学においてのみならず、医学界においても彼の業績が認められたということであり、大変誇らしく感じております。

そして今回、皆様にも金子先生の業績を知っていただきたく筆を執った次第です。

<目次>
1.はじめに
2.輝かしい業績の数々
3.世界に誇れる画期的な「栄養療法」とは?
4.活躍する弟子たち
5.謝辞

はじめに

タイトルからいきなり“日本のライナス・ポーリング”という表現を用いましたが、異を唱える識者も多くいることでしょう。
なぜなら、金子 雅俊先生の他にも三石 巌氏、北原 健氏、山田 豊文氏など、日本のオーソモレキュラー医学に貢献された医師以外の科学者は数多くいらっしゃるからです。したがいまして、「私見」と注釈をつけることでご容赦願いたいと思います。

さて、個人として唯一、ノーベル賞を2度受賞した科学者としても知られるライナス・ポーリング博士が医者ではなかったことは有名な話です。そして、米国医学界の権威であるメイヨー・クリニックとの、ビタミンC にまつわる激しい論戦があったこともよく知られています。金子先生の日本における活動もまた、米国と同様、医学界との激しいバトルの末に道を切り拓いて行かれたことは想像に難くありません。

私が金子先生をポーリング博士になぞらえた理由は、真実を追求する探究心と論理的思考に優れていることに加えて先見の明があり、まさに「天才」と呼ぶにふさわしい業績を残されたからです。

昨年、その金子 雅俊先生が永眠されました。日本のオーソモレキュラー医学(分子整合栄養医学)の草分けであるKYB(Know Your Body)Clubを創設し、 そして金子塾の塾長として多くの後進を育てられた金子先生の死を悼むとともに、先生が残した偉大な業績について紹介したいと思います。

<写真1>日本オーソモレキュラー医学の父・金子 雅俊先生

輝かしい業績の数々

これは1984年、まだ医師のほとんどが栄養療法に無関心(あるいは無知)であった時代のことです。当時「栄養素が欠損すると病的な状態になる」という概念しかなく、「必要な十分量を投与することで病気を治す」という考えはありませんでした。

金子先生はKYB Clubの活動を通して、患者さん(正しくは被験者)に栄養療法の前後で医療機関による血液検査を受けさせ、データを蓄積しました。今や科学の分野では常識となった“EBM(Evidence Based Medicine:根拠に基づく医療)”を30年以上も前に実践したのです。その後30年間で、延べ35万人ものデータを解析し数々の発見をされました。

「がんに対するビタミンC点滴療法」を開発し、金子先生の親友でもあるヒュー・リオルダン博士は、著書『Medical Mavericks』において金子先生の業績を称えています。

また、1994年にはヘリコバクター・ピロリへのアプローチ法を確立し、ピロリ菌検査と除菌を推進しています。日本へリコバクター学会の前身である研究会の発足が1995年であることを考えると、当時の医学界でも未だごくわずかの研究者しか知らない医学情報に取り組み、いち早く研究したことになります。2001年にはその研究業績に対して、ピロリ菌研究の世界的権威で2005年にノーベル生理学・医学賞を受賞されたバリー・マーシャル博士から感謝状が贈呈されています。

<写真2>オーストリアの学会からの賞状

その他にも「潜在性鉄欠乏性貧血」の発見、「低血糖症」の発見、担がん患者における栄養療法の確立、高濃度ビタミンC点滴療法の紹介など、金子先生の業績は枚挙にいとまがありません。まさに“日本オーソモレキュラー医学の父”と言っても過言ではないでしょう。

2007年、国際オーソモレキュラー医学会(International Society of Orthomolecular Medicine)は金子先生の功績を称え、日本人として初めてのHall of Fame Year を授与しています。

<写真3>金子 雅俊先生とバリー・マーシャル博士(2001年パースにて)

世界に誇れる画期的な「栄養療法」とは?

金子先生の数ある業績の中でも、特記すべき偉大な業績が「血液検査解析に基づいた個別化栄養療法」の開発です。この日本発の画期的な栄養療法は、西洋医学が最も苦手とする慢性疾患の予防あるいは未病段階の不定愁訴の改善に目を見張る効果を示したのです。本法は、後年「EBMに基づく栄養療法」として多くの医師が受け入れ、日本オーソモレキュラー医学会の創設に多大な影響を与えることになりました。

読者の皆様も健康診断などで血液検査を受けたことがあると思います。その検査データには基準値(以前は正常値)があります。その基準値を外れると異常値として様々な病気の判断がなされるわけですが、金子先生は35万件のデータから、基準値をさらに進化させた“最適値(optimal range=最も健康に近い理想値)を算出されました。

今でこそ最新医学であるアンチエイジング医学(抗加齢医学)の分野でビッグデータやA I(人工知能)を駆使して算出される最適値を30年以上も前から研究されていたことになります。

一体全体どうやって?もうこれは、タイムマシンにでも乗って未来の医学をのぞいてきたかのような離れ業です。この血液検査データの分析により、金子先生は様々な酵素の活性低下(=細胞の機能低下)が栄養不足により引き起こされていることを見出し、また不足した栄養素を補充することでこの機能低下を改善できることを発見したのです。

さらに、この栄養療法は、個人個人によって栄養素の処方が異なる「オーダーメイド治療(個別化医療)」に相当します。この概念も最近になって統合医療の分野で提唱されている新しい考え方で、まさに時代を先取りした画期的な治療法と言えます。

この度、英文の学術誌 『Nutrients』 に金子先生の業績を“Personalized Nutritional Therapy Based on Blood Data Analysis for Malaise Patients” として投稿したところ、2021年10月15日付で承認されましたので、皆様にご報告いたします。

同論文では、総説として「血液検査解析に基づいた個別化栄養療法」を金子法(Kaneko’s Method)として紹介しました。学術誌“Nutrients”は査読つきの権威ある医学雑誌として知られております。その医学雑誌が今回の論文を承認したことは、金子先生の業績が医学界でも認められたということになります。

10月15日は「第3回 日本オーソモレキュラー医学会総会」の前日に当たり、一会員として、また金子先生の後進のひとりとして、大変感慨深いものがございました。

栄養療法の詳細については論文に記載しましたので、ご興味のある方は以下のリンクからアクセスいただければ幸いです。より多くの医師が本法を支持し、診療に取り入れることを期待いたします。

<論文>
“Personalized Nutritional Therapy Based on Blood Data Analysis for Malaise Patients”

活躍する弟子たち

金子先生の意思は後進に引き継がれています。KYB Clubの活動は、長男の金子 俊之氏ならびに次男の金子 雅希氏が引き継いでおられ、現在も活躍中です。

金子先生の教え子としては、当学会の理事でもあり血液分析による栄養療法の普及に努める溝口 徹先生、低血糖症治療の第一人者・柏崎 良子先生、NPO高濃度ビタミンC点滴療法学会を立ち上げた宮澤 賢史先生、「妊婦と栄養」の渡邊 一征先生、臨床CBDオイル研究会を立ち上げた飯塚 浩先生ほか全国200ほどの医療機関で、様々な分野の先生方が活躍中です。

謝辞

最後に、本稿の執筆にあたり資料をご提供いただいたKYB Group様、寄稿する機会をいただいた本学会理事長の柳澤 厚生先生に謝意を表し、筆を擱きたいと思います。

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