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プロテインマニア【前編】

この記事の執筆者

デンタルスタジオ・ラグフォーム新百合ヶ丘

大学卒業後、高齢者医療と美容医療を平行して取り組むことで、加齢による顎顔面の機能・形態変化の若返りを主眼とした治療を行う様になる。

自己紹介

寒いのが苦手です。

「あれっ、硬い!全然違う」思わず絶句しました。今からこの2kgの肉を食べるのに・・・。

これは子どもの頃の話。近所のスーパーへ行くと、焼き鳥の屋台が出ていることがあり、それを食べるのが大きな楽しみだったのを覚えています。その頃の自分にとって、鶏肉は“好物”の一つ。

その後、増量し身体を鍛え始めてからは、たくさんのタンパク質を摂ることに専念していました。当時の私にとって、価格も手頃な鶏肉はまさに「天然のサプリメント」でした。今思えば、嗜好品の範疇で留めておくほどが丁度良かったのですが、当時は腸管からの吸収というところにまでは考えが及ばず、とにかく摂れるだけの鶏肉を摂取しつつトレーニングを行う日々を続けていました。

硬さとの闘い

一人暮らしを始めてから、まず徹したのが自炊です。自炊には「節約」と「身体作り」という二つの目的がありました。スーパーに行くと鶏むね肉2kgが約500円で売っていたのです。これは安い、と購入しました。しかし、当時の私はむね肉ともも肉の違いもさほどわかっておらず、自分の頭の中で“鶏肉=唐揚げ=もも肉”という図式が構築されていました。

ご存知のように、むね肉はもも肉と比較すると、加熱後は硬さが増します。今でしたら筋線維の方向を見て小さく切り分けて調理しますが、当時はとにかく量を食べることを意識しており、塊ごと食べていたのです。付け加えると、この時はむね肉を焼いていたため、なかなかの硬さに仕上がっていました。

あまりにも長く噛み続けた(2kg分あるので)結果、顎だけでなく側頭筋まで痛くなりました。余談ですが、人間は咀嚼を行う際に幅広い筋肉を使います。元々私たち人間は食事の際、顎の筋肉だけでなく、僧帽筋と呼ばれる背中の筋肉も動かして食べていました。それが加工食品の普及に伴い、顎に位置する咬筋しか使わないようになりました。

側頭筋を動かさない咬筋のみの噛み方は顔貌の老化を進める原因となるので、おすすめできません。しかしながら、当時の私にはそのような知識もなく、ただ鶏肉の硬さに驚くばかりでした。結局噛み過ぎたことで顎も頭も痛くなり、一度では半分の1kgですら食べ切ることができませんでした。この現象は、人類学的には食生活の変化による「顎の退行変性」と捉えることもできるかもしれません。

肉の部位が違うとは気付く術もなく、火加減なども変えながら様々な調理法を試したのですが、(そもそも丸ごと食べようとしていたので切り分けていない)やはりどのように調理してもむね肉はむね肉。思い描いていた食べやすいもも肉にはなりません。そして、その後も“ただただ硬い肉”として私の前に立ちはだかりました。

「このままでは筋トレのためのタンパク質補給に影響が出る・・・」と焦り、一度煮た肉をミキサーで粉砕して胃に流し込むことにしました。その時、フードプロセッサーを使わずミキサーに塊のまま放り込んだのですが、その結果、何が起きたかお察しの方もいらっしゃるかと思います。そうです、ミキサー自体が壊れてしまったのです。これにはもうお手上げです。

実家に戻った際、母に鶏むね肉について尋ねたところ、あっさりと明確な回答が返ってきました。私はこれまで、もも肉のイメージでむね肉を食べていたために違和感を覚えていたのです。部位が違うとわかれば「硬い肉」という前提でむね肉を食べれば良いので、気持ち的にはスッキリしました。その後、遅延型フードアレルギー検査を行うまでの間、私の食生活においては“鶏むね肉の王朝時代”が続きます。

鶏肉というタンパク質について考える


続いて、むね肉ともも肉について考察していきます。脂肪の量はもも肉が3倍ほど多くなります。
※ここでのむね肉とは、皮なしの状態です。

米国の文献によれば、鶏むね肉に含まれるタンパク質は100g換算で31g、もも肉の場合は26g程です。一方、コンビニのサラダチキン(むね肉)のタンパク質は23gです。私見ですが、鶏の育つ環境と調査を行う目的の違い(野生種としての動物学的な側面での定量的な数値か、家畜としての食品栄養学的な数値か)における差異があると思っています。人間も同様に、同じ体重でも運動をしている人の方がタンパク質量は多いですよね。

そもそもタンパク質は筋肉を作るだけでなく、エネルギー源やホルモン・酵素・ヘモグロビンの生成など、生体内で幅広く利用されております。つまり、利用される分だけタンパク質は毎日分解されているということです。そのため、筋トレを行わない方であってもタンパク質は日々摂取する必要があります。

「タンパク質を食べること」を考える

タンパク質と一言でいっても、多くの食品が存在します。米国では動物に特定のタンパク質だけを摂取させて飼育を行いました。その間に、①増えた体重 ②摂取させたタンパク質量から、タンパク質の吸収において品質が高い食品をランク付けしています。これは「Protein Efficiency Ratio(PER)」と呼ばれるものです。この結果では、卵の品質が最も高くなりました。次いで乳清タンパクであるホエイプロテイン、牛肉、牛乳の順です。

しかし、現実的にタンパク質を摂取する場合、ただ摂れば良いわけではありません。消化・吸収も効率良く行われる必要があります。摂取したタンパク質がアミノ酸に分解された後、体内に吸収されるまでを一括りとして考えなければ、効率的な身体作りはできません。そこで、「Protein Efficiency Ratio」に消化のされやすさを加味した「protein digestibility-corrected amino acid score(アミノ酸スコア)」という指標が誕生しました。この指標の信頼度の補正には、体内から排泄された窒素の測定値が用いられます。

タンパク質が分解されると窒素が生じますが、人間が1日に排泄する窒素量は15gほど。つまり、15g分の窒素を含むタンパク質が毎日分解されていると考えれば、タンパク質の枯渇に対処できることが伺えます。さらには、タンパク質から摂取した窒素量から排泄された窒素量を測定すれば、体内に留まった窒素量を調べることができます。

シンプルに引き算で考えると、このことから体内に留まり利用されるタンパク質量を評価できます。吸収されたタンパク質が排泄されるまでに、少しでも長く体内に留まれば留まっただけ、体内でより多く利用できるのです。すなわち、筋肉を作るためには吸収されたタンパク質が“どれだけ体内に留まることができるか”が鍵になります。

「Biological Value」と呼ばれるこの測定法では、評価が高い順にホエイプロテイン、卵、牛乳、牛肉となります。つまり、ホエイプロテインが最も長時間体内に留まるということです。理由としては、各タンパク質に含まれるアミノ酸の組成と割合の違いが挙げられます。(アミノ酸については別の回でご説明します。というのも、タンパク質について書き始めた結果、規定文字数内ではとても書き切れないことに気付いたためです)

さらにタンパク質の消化されやすいという特性を加味しますと、牛肉以外の食品は全て同じ数値であり、牛肉よりも高い(消化されやすい)です。これらのことから、タンパク質の補給には肉よりもホエイプロテインの摂取が推奨されています。

では、どうして一般的な身体作りで鶏肉が推奨されるのでしょう。

それはコスト安だからです。つまり、身体作りのための理想的なタンパク質摂取を考えた場合、下記3点の効率化がポイントになります。

1)体重の増加(Protein Efficiency Ratio)
2)体内での利用(Biological Value)
3)消化・吸収(protein digestibility-corrected amino acid score)

そして、以上3点に各々のお財布事情が加味されます。こちらで先に答えを申し上げますと、この3点をクリアしたとしてもタンパク質の効率的な摂取の根拠には不十分です。(どうりでコラムが書き切れないわけです)

後編では、より効率的なタンパク質の摂り方や摂取時の注意点などについてお話しいたします。




※プロテインマニア【後編】は9月4日配信予定です。お楽しみに!


<参考文献>

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