尿酸は「プリン体」という物質が体内で分解されることで生じます。ここでいう体内とは、細胞の中という意味です。プリン体が増える原因としては、食生活や飲酒が主な環境要因として取り沙汰されており、世間では尿酸値が気になる方向けのアルコール飲料なども販売されています。減量トレーニングを始めてから、私はお酒をほとんど飲まなくなり、高脂肪食も食べていません。全ては趣味の身体作りのために、食事制限をしてひたすら筋トレに励んでいました。
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筋トレと痛風
人間ドックでの出来事
「んっ! 何でこんなに高いんだろ!」
突然の困惑した声に私も動揺を隠せず、身を乗り出します。身を乗り出されて余計に困惑したのは、目の前に座っているベテラン内科医だったに違いありません。「他の数値は正常なのに、どうして尿酸値だけこんなに高いのか。ご家族でどなたか尿酸値の高い方はいますか?こういう人は見たことがない・・・。」
帰りの電車内、ひたすら「尿酸 高い 原因」で検索したことは言うまでもありません。当時、食事療法と運動は欠かさずに行っており、それまで血液検査で問題が見つかったこともありませんでした。そのため、今回も問題ないだろうと決め込んでいただけに大変なショックを受けました。そして尿酸について検索し続けた結果、とあるウェブサイト上のコメントに救われました。
なんと、私が求める答えに導いてくれたのは、 内科の先生ではなくボディービルダーだったのです。
筋トレと尿酸
ここで勘の鋭い方はお気付きになられたかもしれません。“筋トレをする”ということは、一時的に“身体の筋細胞に負荷をかけて壊す”ことを意味します。(細胞が壊れると、細胞内にあるプリン体が血中に移行するため、結果として尿酸値が上がってしまいます) なんと、私の尿酸値が高い理由こそ、全力投球していた筋トレだったのです。それもそのはず、内科の先生と話している時に私は身を乗り出していましたが、その時もひどい筋肉痛に見舞われていました。
健康診断で血液検査を行う際には、食事や喫煙の制限および常用薬の服薬に関しての注意事項などの説明を書面で受けることが大半です。その一方「前日には筋トレをしないように」と記載している医療機関を私は見たことがありません。この場を借りて先生方にお伝えしますが、前日に筋トレを行うと私のように確実に尿酸値のみが突出して高くなるので、検診を受けられる方には注意事項としてその旨を是非お伝えいただければと思います。
考えてみてください。朝から検査を受ける場合は夕食に制限が出されます。事前に渡された用紙には、21時以降の食事を控えるようにと記載されています。当時の私は、仕事が終わる時間が遅かったため、前日の夕食を取ることができませんでした。そして言わずもがな、空腹感に襲われます。では、その空腹感を紛らわすために何をするか。そうです、筋トレです。
ちなみに日本の健康診断において、尿酸値の正常値は3.7~7.0mg/dlとされていますが、その時の私の数値は8.8mg/dlでした。筋トレ後にこれほど尿酸値が上がることを考えると、日常的に尿酸値を抑える食事メニューを考えた方が良さそうです。原因もわかったところで、薬は飲まずに食事療法を行いながら尿酸値を下げつつ、筋トレは続けていくことにしました。
尿酸値を下げる食事メニュー
食事メニューを決める時に困ったことと言えば、すでに食事療法を行っていたために一般的に行われる“高プリン体食(お酒や肉類・卵類)”の摂取を控えるという手法が通用しないことでした。しかも、当時は大食癖が残っていて、量を減らさずに質を変えていく必要もありました。その頃の私は栄養療法についての勉強を今ほどしておらず、一般的な知識しか持ち合わせていないながらも、尿酸値を上げるとされる食品は摂取していませんでした。そこで、逆に尿酸を排出する食品を摂ろうと考えました。
行き着いた食材は、トマトジュースとカゼインタンパクです。これはあくまでも巷で目にする情報から出した答えなので、明確な根拠はありません。それでも気になるとすぐに行動に移してしまう性分であるため、早速食事メニューに取り入れ始めました。カゼインに関しては、トレーニングの栄養補給として毎日摂取していた大豆プロテインをカゼインプロテインに置き換えました。
大食いの習慣が抜け切っていなかったため、食前にトマトジュース900ml(市販の無塩トマトジュースボトル1本分)を2本(計1.8ℓ)飲む生活からスタートしました。すると、次第に「有機栽培のトマトを摂取したい」と思うようになり、途中からはトマトピューレを作って飲み始めました。そして、気付いた時にはこのトマトピューレにカゼインプロテインを混ぜて飲んでいたのです。(思えばこれが食に対する合理化の始まりでした)
当時は無心に日々トマトジュース生活を送っていました。仕事上の付き合いで居酒屋に行った際にもお酒は飲まず、ひたすらトマトジュースを飲み続けました。(飲み放題ということもあり) 店の在庫が底を突くまで飲み続けます。(補足ですが、今はそのようなことはしておりません)今思えば何とも根拠の薄い食事療法でしたが、その結果として尿酸値は6.3にまで下げることができました。
この経験を踏まえ「トマトとカゼインタンパクは本当に尿酸値を下げるのか」説を改めて検証してみたいと思います。
尿酸の存在意義
尿酸について、日本においては“老廃物”というマイナスの印象が強いですが、一方で体内の活性酸素を取り除いてくれる働きがあります。人間は抗酸化物質であるビタミンCを体内で作ることができません。しかし、尿酸は作ることができます。
言い換えると、人間が進化する段階で尿酸を獲得した代償としてビタミンC生成能力を失ったのではないか、という説も実際に存在します。とはいえ、尿酸が増えすぎると痛風になるのは有名な話ですよね。痛風はメディアでもよく取り上げられていますし、周りにも誰かしら痛風の人がいたりします。(私が初めて痛風を知ったのは小学生の頃でした。社会科の先生がいつも「(痛風で)足が痛い」と話しておりましたが、当時は何のことだかわからずに首を傾げていました)
つまり、尿酸値が下がれば身体の抗酸化力も低下、はたまた上がれば痛風になるのですから、尿酸値に関しては単純に下げれば良い訳ではなく、上げ過ぎずに上手に付き合っていく必要があります。
トマトと尿酸
トマトに含まれる栄養素として、カロテノイドの一種である「リコピン」が挙げられます。海外の研究では、尿酸の血中濃度はこれらカロテノイドの血中濃度に反比例することが分かっています。つまり、カロテノイドの血中レベルが上がれば尿酸値は下がります。一方で、この研究でも尿酸値が下がりすぎると身体能力が低下するという結果が出ています。
また、高齢者や筋力の弱い方には、尿酸値の低下により明確な運動機能の低下が認められています。研究チームは「身体能力の低下が一番少なかったのは、尿酸値4.8~5.3mg/dlの実験群だった」と結論付けています。この研究からも、やはり尿酸値は“上げすぎず、下げすぎず”が良さそうです。
トマトの食べ過ぎには要注意
カロテノイドと尿酸値の関連性について先ほどお話ししましたが、日常の中でトマト製品を摂取する際の注意事項をお伝えします。トマト缶の中には、内側に「ビスフェノールA」という化学物質が含まれている商品があります。一部の輸入品のトマト缶の内側のコーティング部分にビスフェノールAが微量に含まれます。
このビスフェノールAは、エストロゲン受容体に結合する性質を持ち、米国では乳がんリスクの原因物質の一つとして認識されています。トマトの酸性度が高いと、ビスフェノールAが溶け出します。ちなみに、1 日のビスフェノールA耐用上限量は0.05mg/kg/day以下となっています。トマト缶には0.023~0.029ppmのビスフェノールAが含まれているため、大量摂取には注意が必要です。
牛乳タンパクと尿酸
カゼインとは、牛乳に含まれているタンパク質の一つです。牛乳には、カゼインタンパク、ホエイタンパクの2種類のタンパク質が含まれていますが、どちらのタンパク質も尿酸の排出を促す作用があります。牛乳タンパクが消化されてから3時間ほど経過すると、血液中の尿酸が通常より10%ほど多く尿中へ排泄されます。(大豆タンパクについても、米国で行われた研究によって尿酸値を下げる働きを有することが立証されています)
さらに、牛乳タンパクと大豆タンパクとでは、牛乳タンパクがより尿酸値を下げます。それは「大豆タンパクには、尿酸の元である『プリン体』が多く含まれる」ためです。したがって、“大豆タンパクが尿酸を血中から尿へ排泄する作用”よりも“大豆タンパク自身が分解された時に作り出される新たなプリン体が血中尿酸値を上げる量”の方が多くなってしまいます。一方、カゼインタンパクやホエイタンパクにはプリン体が含まれないため、タンパク質として摂取しても尿酸値は上がらないのです。
では、カゼインタンパクとホエイタンパクではどちらがより尿酸を排泄してくれるのでしょうか。答えは「ホエイタンパク」です。その理由としては以下の可能性が挙げられています。
タンパク質は消化されるとアミノ酸に分解されます。分解されたアミノ酸の一部は、腎臓の糸球体で体内に再吸収されます。タンパク質が腎臓で再吸収されると、その際に尿酸の再吸収を阻害します。その結果、再吸収されない分だけ尿酸の排泄量が増えます。牛乳タンパクを摂取した場合、消化後に生じるアミノ酸量はカゼインタンパクよりもホエイタンパクの方が多くなります。そのため、ホエイタンパクが尿酸の排泄にはより有効です。
以上の点から、尿酸の排泄を促したい場合にカロテノイドや牛乳タンパクを摂取するという行為は理にかなっていたようです。さらに結論付けますと、筋トレ後の牛乳タンパク摂取はタンパク質の補給だけでなく、トレーニング中に血中に排出された尿酸を体外へ排泄する手助けまでしてくれるのですから、非常に合理的な栄養補給と言えます。
最後に
ふと思いました。「いつもトレーニングの話ばかり」とお思いの方もいらっしゃるのではと。最後に、歯科医師として口腔と尿酸の関係についてご紹介したいと思います。海外では、歯周病の原因の一つとして「酸化ストレスや抗酸化酵素の不足による歯周組織の侵襲が、慢性的な炎症を引き起こしている」と考えられています。リコピンの抗酸化力はβカロチンの2倍、α-トコフェロール(ビタミンEの一種)の10倍もあり、脂質やタンパク質の酸化を防ぎます。つまり、リコピンは歯周病の予防にも一役買ってくれるんですね。
ちなみに、口内の抗酸化は唾液が行いますが、その主役はなんと今回のキーワードでもあった「尿酸」なのです。唾液中の抗酸化物質の70%は尿酸で、さらにビタミンCが尿酸の抗酸化力を補填しています。リコピンが増えると唾液中の尿酸も増え(血中から唾液へ移行すると推察できます)、抗酸化力が増すという研究結果も報告されています。やはり、尿酸は減らしすぎず増やしすぎず、仲良く付き合っていくのが一番のようです。
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『Anti-Aging Therapeutics Volume XIV』 P107~P112
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