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【対談】精神科医療における新しい治療選択肢「TMS 治療」とは

この記事の執筆者

医療法人回生會 みぞぐちクリニック

うつ病をはじめとする精神疾患は誰もがなる可能性のある病気で、患者数は年々増えています。精神科領域の治療は薬による治療がメインですが、なかなか治療効果が見られない方、副作用がある方、そもそもお薬に抵抗がある方に対してはお薬以外での治療選択肢が望まれます。

新しい治療選択肢として注目されている“TMS 治療”は、脳に繰り返し磁気刺激を与えることで、脳の働きを正常に制御していく治療法です。

また“オーソモレキュラー療法”は、従来の治療法で十分な改善が見られない患者さんに、治療選択肢としての希望を与えています。今回は東京横浜 TMS クリニックをはじめ、心療内科・内科のクリニックを展開する医療法人社団こころみ理事長の大澤亮太先生との対談です。

まず前編では“TMS 治療”について、後編では“コロナ後遺症に対する TMS 治療”と“精神科医療の在り方”についてお届けします。

精神科医療の治療選択肢「TMS 治療」と「オーソモレキュラー療法」

大澤先生:私自身精神科の医師なので、精神科の医師の中での TMS 治療のイメージはある程度理解はしているのですが、他の領域の先生はTMS 治療のことをご存じないことがほとんどかと思います。先生のTMS 治療に対するイメージはいかがですか?

溝口:私は麻酔科だったのでまず思い浮かぶのは ECT(電気痙攣療法)で、それとは違うということはわかります。素人っぽいイメージですけど、怖くないのか、大丈夫なのかというのはありますよね。

大澤先生:そうですね、ECT のようなイメージを持たれる先生が多いのと、一般の方だと某宗教団体 で有名になったヘッドギアのイメージがあってやはり怖い、と思われることが多いのかなと思います。ただ実際には副作用も少なく、安全性の高い治療法といわれています。

実は私もまず自分で体験してみるべきだと思いまして、先週から治療を受けているのですけど、ちょっと痛いんですよ。人によって感じ方はいろいろありますが、デコピンをされている感じです。慣れると大丈夫なんですけどね。

メカニズムとしては、簡単に言うとピンポイントで脳の部位を刺激することで神経のネットワークを改善していこうという考え方の治療になります。

それぞれの治療に取り組むきっかけ

溝口:精神科は他の診療科に比べても治療のマニュアル・ガイドラインなどが確立されているので、そこにない一般的ではない治療に興味を持つ先生は少ないイメージがありますが、どうして大澤先生は TMS 治療に興味を持たれたのですか?

大澤先生: 当時、開業して 3 年目ぐらいで、患者さんに何剤か薬を使って治療しても、良くならないケースは一定数出てくるんですよね。何か他の治療選択肢はないか考えていて、違うアプローチで効果のあるものがあれば、と思っていた時に、TMS 治療がうつ病に対してちょうど保険適用になって効果のある治療だという認識を持ったので取り組んでみようと思いました。

薬で、大体 7 割ぐらいの方が改善して 3 割ぐらい反応しない方がいる中で、その 3 割のうちの 5 割~7 割ぐらいでも良くなれば、だいぶ多くの方が良くなるのではないかなと思って調べはじめたのが経緯ですね。もう一つは、経営的な観点も正直ありました。TMS を学べる場を作ることで、良い先生が集まってくれることを期待しました。

溝口先生がオーソモレキュラー療法に興味を持たれたきっかけはどうでしたか?

溝口:最初のきっかけは奥さんの 2 人目の出産後の体調不良だったのですが、日常生活もできないような感じになってしまって、その時この治療に出会って、この治療が最初精神科領域で始まったものだというのもあって興味を持ちましたね。これから先は血液検査の話ですけど、データの見方が全然違うんですね。分子栄養学だと、いわゆる一般の採血検査における、基準値があって臓器の異常を見るのではなく、栄養の代謝を検査データから細かく見ていくんですけど、それを勉強してうちの奥さんのデータを見てみたらひどい栄養の問題だったんですね。 データをもとに必要な栄養素を補っていったらみるみる元気になりました。

1 人目の時は大丈夫だったけど 2 人目の時はこんな栄養状態になってしまって、そういえば髪も抜けて肌も荒れて爪もボロボロになっていたなというのを後で思い返すと、全部合点が行きました。

その後そのやり方で慢性疼痛の患者さんなどを診ていったら、栄養状態の問題で痛みが長引くというのがわかってきて、臨床で応用するようになっていきました。 検査データの読み方っていうのは僕らの治療法ではポイントになるのです 。

TMS治療の特徴と課題

溝口:投薬治療と TMS 治療は全然種類の違うものなので、治療経過も異なると思いますが、 どのような特徴がありますか?

大澤先生: 基本的にうつ病、うつ状態の治療になりますが、最大の特徴は、治療経過が早いというところですね。

基本的に薬ですと 2 週間ぐらいしてようやく少し効果が見えてきて、 1~2 ヶ月経過を見ていく感じなんですけど、TMS の場合は短期で集中して治療することができるので、疾患特性にもよりますが早い方だと2~3週間ぐらい、働かれている場合でも有給を取ってその期間で、寛解レベル*に持っていけることが大きな特徴ですね。

薬だと化学的にアプローチしていきますが、TMS は物理的に磁気刺激でピンポイントにアプローチしていくという違いがあります。

溝口:ちなみに海外の状況はどうですか。日本だと適用がかなり絞られていると思いますが、海外ではどんな領域に応用されているんですか。

大澤先生:海外ですと、うつはもちろんですけれども、 強迫性障害やニコチン依存症が正式な適応ですね。コカインとか、あとは摂食障害も炭水化物依存のような傾向もあるので、過食が落ち着くということが TMS 治療をしているとあるようです。

このように依存症治療なんかは、結構有力視されています。

あとは、線維筋痛症、痛みの治療っていうところでも今エビデンスがでてきています。リハビリ領域でも活用されています。 麻痺の方に対して、TMS で刺激した後にリハビリをすると進みやすいというように、いろいろ研究されて、少しずつ進んできていますね。

溝口:いろいろ治療の幅がありますね。 結構機器に依存する治療法かと思いますが、その機器のメーカーとか、種類によって違いとかありますか。

大澤先生:現状日本では使われている機器は数が少ないので、そんなに比較はできるわけではないですけど、今だと FDA*に認可されているような、当院が入れているマグプロというマグベンチャー社が作ったものや、保険診療の治療用機器として厚労省に認可されているニューロスターなどがあります。

そういった機器は治療効果としては、刺激の安定度などが違いますよね。

中には効果が疑問視されている機器もあるようです。

溝口:そういう機器を使って効かないからといって TMS 治療が全部否定されるのも困りますね。

大澤先生:TMS 治療も、ある程度理解されている方は効果があると言ってくれる治療ですし私達も実施していて効果を実感していますが、専門家ですら“怪しい”と思っている方がいらっしゃるような所があるんですよね。当院の TMS 治療もオーソモレキュラー療法も自由診療で、主流ではないと批判されることもあるかと思いますが、それでも患者さんにとって良い医療を提供していこうという想いで目の前の患者さんを大切にして TMS 治療を提供しています。

患者様にとって良い医療を提供するために

溝口:TMS 治療の場合は疾患に限ってはもう保険で認められているので、非常に羨ましいですね。オーソモレキュラー=怪しいというように思われている先生もいて、もうそれは常に感じているのできっと TMS でもあるのではないかなっていうふうには思います。 私が心がけているのは、理解してもらえる人を増やすということですね。2004 年から医師向けの勉強会を初めて、コツコツ興味がある人に話をして、さらに興味を持ってくれた人には、臨床に取り入れてもらってというのを続けて約20 年です。

精神科の先生でなかなか薬が減らせないというところに問題意識を持っている先生は、何か他にいい方法はないかなって思っているのではないかと思います。

それでこの TMS やオーソモレキュラー療法とかに興味を持ってくれたら嬉しいですね。

大澤先生:実は最近少し話題になっている発達障害と TMS 治療ですが、発達障害そのものに対する TMS の治療効果があるというエビデンスは今のところないのが現状です。発達障害に効果があるように言っている医療機関もあって、発達障害で悩まれる方は疾患特性として、適切な判断をするのが苦手な方たちもいるので、効く、治るって言われるままに TMS 治療を実施するっていう状況があります。 TMS 治療は副作用が少ないので、問題にならずやりたい放題で、おそらく一部プラセボ効果*で効いた 方の口コミが広がっていってという状況です。“おかしい”と思った方たちがセカンドオピニオンとして来ていただくこともあるのですが、適応とはならないのでやめた方がいいですね、となることが少なくありません。

溝口:そういう方が出てきてしまうんですね。

大澤先生:うつ病の方では保険適用にはなりましたが、制約がいろいろあるので、自由診療で TMS を考えた時には、どうしても費用的に難しくなってしまいます。日本では保険医療が優秀で、お金を払って治すという文化がないので、ほとんどの方が薬の治療を選びますよね。そもそも知らないという方が多いです。

ですから残念ながら、うつだけでまじめに診療していると経営が成り立ちません。

それもおそらく、こういう方向(発達障害等エビデンスのない治療を実施)に行ってしまった理由だと思いますね。

溝口:今精神科の先生の中でちゃんと臨床で TMS を取り入れている医療機関はどれくらいあるんですか。

大澤先生:いくつかの医療機関で導入され始めていますが、まじめに TMS 治療を実施し事業として運営できるところは、皆無と言ってもよいかと思います。現状、自由診療領域でまじめに治療している医療機関はおそらくあまり治療件数をこなせてないんですよ。

溝口:大学病院とかでもやられてはいますよね。

大澤先生:はい。保険適用でそれこそ欧米での 10 年前ぐらいのやり方が今ようやくできるという状況ですが、かなり制約が大きいので、症例数もかなり限られてしまいます。10 例 20 例をそれぞれの大学でやっている形になります。

今レジストリ研究*をすすめていますが、レジストリ登録するのは私共のクリニックが圧倒的に多いです。

地道に実績を積み上げていくしかないと思っています。

【注釈】

寛解レベル*:「寛解」は病気による症状や検査異常が消失した状態であり、本来の調子にまで改善するレベル

FDA *:FDA(Food and Drug Administration)とは、アメリカの行政機関である「アメリカ食品医薬品局」の略称。日本の厚生労働省にあたり、アメリカ国内で流通する製品の安全性や有効性を確保することFDAを目的としている

プラセボ効果*:プラセボ(プラシーボ)効果とは、実際には治療効果がないものを与えられた場合でも、患者がその治療によって回復したように感じたり、改善したりすること

レジストリ研究*:レジストリ(疾患登録システム)は、特定の疾患などについて、治療内容、治療経過などの医療情報を収集するデータベース。レジストリデータを利用し、医療の向上に役立てることを目指す

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