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【対談】コロナ後遺症に対するTMS治療と精神科医療のあるべき姿

この記事の執筆者

医療法人回生會 みぞぐちクリニック

前回、精神科医療の新しい選択肢であるTMS治療について大澤先生にお話しを伺いました。

今回は「コロナ後遺症」に対するTMS治療精神科医療のあるべき姿というテーマでの対談です。

東京横浜TMSクリニックでは、コロナ後遺症に伴う精神症状や認知機能低下に対する有効な治療法を確立することを目的に、臨床研究を実施しており、ご協力いただける患者様を募集しております

詳細は、HPをご覧ください。

東京横浜TMSクリニック「コロナ後遺症のメンタルヘルスTMS療法探究プロジェクト」:https://www.tokyo-yokohama-tms-cl.jp/corona-project/

コロナ後遺症に対するTMS治療とオーソモレキュラー療法

大澤先生:コロナ後遺症はまだ治療の体系がわからない中で手探りだと思うのですが、栄養療法という観点で先生のところに受診される患者さんはいらっしゃいますか。

溝口:実際はそんなに多くなくて、僕が直接コロナ後遺症の相談を受けたのは、数例ですね。 あまりコロナ後遺症に対してオーソモレキュラー療法というのが認知されていないんだと思います。

ただ10例に満たないですが、診察していて、やはり栄養の問題があるかなとは思っています。 やはり治療すると患者さんは元気にはなりますよね。 動ける時間が増えてくるとか、ブレインフォグが取れてくることはあります。

溝口:今コロナ後遺症に対する臨床研究をされているということですが、先生がこの研究をやろうと思われた経緯を知りたいですね。

大澤先生:そうですね、うつの治療での効果のメカニズムには、認知機能の改善というところがあるので、ブレインフォグという症状が目立つ方には直接的に効果があるのではと、当院顧問の野田先生と以前から議論していました。ちょうど基礎研究とかのデータからも、眼窩前頭皮質や海馬傍回の萎縮とかが報告されてきたので、脳を刺激して賦活するアプローチは効果があるではないかという仮説を立てて、昨年後ろ向きにパイロット研究*をしました。

結果、慢性疲労の改善は限定的だったのですが、思考抑制などいわゆる「ブレインフォグ」がみられる方は明らかに改善する傾向がみえました。実臨床でも感覚的に、明らかにコロナ後遺症の思考抑制が強いうつ症状のある方に対して効果があったので、今回RCT(ランダム化比較試験)でしっかりとエビデンスを出そうと実施しています。とてもお金がかかるんですけどね。笑

ちなみにオーソモレキュラー療法では、コロナの後遺症の患者さんも特別なアプローチをされるのでしょうか。

溝口:血液検査をして栄養のバランスを見て、それを食事とサプリで整えていくという形ですね。おんなじ症状を訴えていても選ぶサプリメントが変わることはありますし、検査データに基づいてそこから優先順位をつけて治療を進めていきます。

コロナ後遺症の臨床研究の患者さんは集まりそうですか?

JSOMではコロナ後遺症やワクチン後遺症に力を入れているから興味を持ってくれる医師や患者さんはいるのではないかな。

大澤先生:はい、現在ご協力いただける患者様を募集しておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせいただければと思います。

<お問合せ>

東京横浜TMSクリニック

コロナ後遺症TMS療法RCT研究プロジェクト事務局

mail: cocoromitms.covid19@gmail.com

TEL: 080-7477-8898

これからの精神科医療のあり方について

溝口:私はもともと精神科の専門医ではないので外部の意見ですが、エイブラム・ホッファー*の患者さんの治療目標はタックスペイヤーだったんです。つまり働けるようになって税金を払えるようにするというのが精神科の患者さんの治療目標なんですよね。

そう言う考え方は日本の統合失調症にしても、いわゆるうつに対しても今はあまりないのではないかと思っています。どうにか日常生活を過ごせるようになって、障害者年金等で暮らせるようにしていくというそもそもの目指すゴールみたいなのが違うのではないかなと思っています。

大澤先生:そこは私たちが取り組みたい事と近く、私自身が元々産業医を意識して精神科領域にすすんだ経緯があるため、患者さんの治療を通して生産性を高めていくという視点は非常に重要だと考えています。

良くなってもずっと「病気になった私」という文脈で生きていくようになってしまうことがあり、それを経験として、より何かご自身なりの生き方を一緒に探っていくという意識は、持ちながら取り組んでいます。

溝口:治療のゴールを少しちょっと違うところに持って行った方がいいのではないかと思います。

大澤先生:そうですね。精神科のクリニックは少し変な方向に向かってしまっていて、コンビニのような気軽なクリニックが広がっています。医師も精神科経験不問で、シュライバー*が付いて、とりあえず希望されるままに診断書を書いてっていうところが出てきています。

溝口:すぐにお薬出してくれて診断書を書いてくれるというところが、評判になってしまったりしていますよね。

大澤先生:数で評価されてしまう診療報酬の限界ですよね。どういうふうに質をお金に変えていくかというのをテーマにしないと、良い精神医療にならないと思っています。

私たちの今の取り組みとして、私達が運営支援をして精神科の医師の個人の開業をサポートすることで、経営リスクを抑えながら診療に専念し、必要な医療リソースは共有することで、小さいクリニックですけどゆるやかな連帯のもとで良い精神医療を行っていく拠点を広げていこうとしています。

今回のテーマであるTMS治療に関しても、短期間で効果のある治療ですし、当院のデータでは30~50%の寛解率*になっていまして、50~70%の方に治療反応がみられています。オーソモレキュラー療法も含め、精神科領域で選択肢として広まってほしいと心から思っています。

【注釈】

パイロット研究*

研究プロセスにおける重要なステップであり、本調査を実施する前に、小規模で研究デザイン、手順、手段をテストするもの

▽詳細はこちら

東京横浜TMSクリニック「新型コロナ後遺症のTMS治療パイロットスタディ」:https://www.tokyo-yokohama-tms-cl.jp/long-covid-paper2/

エイブラム・ホッファー*

精神科医、医学博士、理学博士。分子整合医学という分野を開き、確立した一人。ナイアシンが総コレステロール値を下げることを発見し、ビタミンを予防のためだけでなく、治療のために使うという、現在では標準的となっている栄養医学の考え方を開いた

シュライバー*

医療機関において医師のカルテ入力をサポートする役割の人

寛解率*

病気による症状や検査異常が消失した状態である「寛解」に至る割合。本来の調子にまで改善した患者の割合

 

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