日本では、もともとマスク着用がインフルエンザや花粉症の予防対策として習慣づいていました。とはいえ、今回の新型コロナウイルス対策としての長期にわたるマスク装着により様々な皮膚トラブルが増加しています。
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マスクによる肌荒れの予防と対策
コロナ禍において、もはやマスクの装着は習慣化しつつあります。同時にマスクによる肌トラブルも多くなっています。まず短期的な肌トラブルとしては、マスクの一時刺激による炎症の赤み、痒み、ニキビ、唇の乾燥などがみられます。これらは、マスク内の湿度の上昇によって肌のバリア機能の低下が起こることが根本原因と考えられます。
そして、長期的には法令線が目立つなど、たるみの悪化もみられます。これらの予防および改善のためにはスキンケア、そしてインナーケアが重要になります。
今後もしばらくマスク生活は続くでしょう。マスク装着の長期化を見越して、さらなる肌トラブルを生じないよう予防・指導すべきと考えています。
日本女性の4割がマスクによる肌トラブルを経験
実際に、資生堂が20歳〜49歳の女性100人にウェブ上でアンケート調査を行ったところ、「マスクを装着することにより、肌荒れするようになった」と回答した人が38.4%、「肌が痒くなるようになった」が43.3%、「ニキビが出来やすくなった」が34.3%と、ほぼ4割に当たる女性が何らかの肌トラブルを経験したという回答を得ています。これは年代によっても差が出ており、ニキビは20代、痒みは20代〜30代、肌荒れに到っては幅広い年代で起きているようです。
肌荒れによる実際の症状
「肌荒れ」とひと言で言っても人によって千差万別、様々な症状が含まれます。具体的にどのような症状が起こっているのか?そしてその原因は何なのか?実際にクリニックで診察して観察される症状について、時間経過とともに考察してみたいと思います。
初期によく見られる症状
マスクかぶれと言ってもいわゆる接触性皮膚炎(かぶれ)のような症状はほとんど見られません。まず最も多く見られる症状としては、鼻および頬の部分の擦れによる赤み・痒みが挙げられます。つまり、不織布などによる一時刺激による肌の炎症です。これは、マスクの素材である不織布と肌との摩擦による炎症や、マスクにより皮脂が奪われることによる肌の乾燥、そして肌自体のバリア機能の低下によって生じる痒みであると考えられます。
バリア機能の低下は、マスク内の湿度が上昇した状態、つまり蒸れている状態で起こりやすくなります。また、マスク内の蒸れを保湿が十分であると勘違いしてスキンケアを怠ることで、バリア機能のさらなる低下を助長してしまい、結果として痒みを誘発している場合も多いのです。
また、初期症状の一つとしては唇の乾燥も多く見受けられました。しかし、口唇のバリア機能はリップクリーム等の使用でも早期に回復が見込めるため、現在ではあまり見られません。そして、引き続きよく見られるのがマスクに覆われている部分、特に下口唇下の顎の部分の粗造および赤みです。
最近では鼻周りの赤みも増加傾向にあります。これらはマスク内の蒸れもしくは高温になった皮膚温を下げようと発汗、それと同時に皮脂分泌が促された“過剰皮脂”によって皮膚に炎症を起こした状態と考えられます。
そして若い女性に多いのがマスク部分のニキビです。これは上記の原因によって皮脂分泌が盛んになり、嫌気性菌であるアクネ菌が皮脂を餌にマスク内で増殖したためと推測されます。このニキビですが、臨床的には2種類にみられます。平常の炎症性のニキビと、細かい白ニキビが多数マスク内に散見される場合です。白ニキビは短期間で治るのが特徴的である一方、ストレスニキビや大人ニキビは平常より長期化し跡になりやすい傾向にあります。
続いて、最近になって見られる症状としては法令線やたるみの悪化が挙げられます。マスクを長期装着することで、以前より会話が減少し表情筋を使わなくなりがちです。そのために表情筋が萎縮し、たるみが助長されていると考えられます。さらには乾燥による肌のしぼみが法令線をさらに強調してしまいます。
肌トラブルの予防・改善
以上のような肌トラブルは、春から夏頃にかけて散見されましたが、この根本原因はマスク装着時の肌蒸れによるバリア機能の低下が一番の原因と考えられます。平常時は50%〜60%と言われる湿度。医療用のN95マスクは密閉度がとりわけ高いため、マスク内の湿度が90%になるとの報告もあります。こうした点を踏まえると、医療従事者の肌トラブルの増加も懸念されます。
これらの肌トラブルを予防もしくは改善するためにはどのような対策ができるのでしょうか。以下に留意すべき点を述べたいと思います。
スキンケア
まずは肌の根本機能であるバリア機能を整えることが大切です。洗いすぎ、さっぱりしたスキンケアを好む傾向にある若年層の方は特に注意し、しっかり保湿を行って下さい。
今後秋から冬にかけては、例年であれば一気に乾燥する時期ですが、今年はこのような状況下です。マスク内が蒸れて肌の湿度も高く感じるかもしれません。しかしながら肌のバリア機能を保つためには、しっかり保湿をすることが重要であることを指導する必要があります。
正しいマスクの選択
ウイルス感染予防の観点では、不織布で使い捨てのマスクが推奨されます。一方、肌トラブル改善の観点としては、ガーゼマスクやウレタン素材のもの、または不織布マスクの内側にガーゼを一枚挟むなどの工夫も必要になってきます。
バランスの取れた食事
肌の構成成分であるタンパク質はもちろん、ターンオーバーを促進するビタミンA、βカロテン、抗炎症作用のビタミンC、脂質代謝の補酵素であるビタミンB2、B6、H、その他ビタミンEやコンドロイチン硫酸、ナイアシンなどのビタミン・ミネラルのバランスを考えた食事、インナーケアの摂取が重要です。
良質な睡眠
肌のターンオーバーを整えるためにもグロースホルモン(成長ホルモン)を分泌させることが大切です。
入浴
副交感神経優位の状態、つまりリラックスすることで自律神経のバランスはもちろんホルモンの分泌を正常化します。
最後に
今後さらにマスク装着が長期化することで、マスク内の肌環境はもちろん精神的なストレスの影響もあいまって、今までにはない肌トラブルも起こる可能性があります。そうした事態を防ぐためにも、今のうちから肌のバリア機能を上げておく、トラブルになりにくい肌環境を常日頃から整えておくことが望まれます。
<参考文献>
- 資生堂 Web調査:
https://corp.shiseido.com/jp/news/detail.html?n=00000000002921&rt_pr=trg14(資生堂ホームページ ニュースリリース)
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