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専門家が行う睡眠対策〜医師・川嶋 朗先生の場合〜

神経伝達物質の1つであるセロトニンは、精神の安定化のみならず、睡眠ホルモン・メラトニンの生成にも欠かせません。ですから、セロトニンの合成は質の良い睡眠のためにも意識したいポイントとなります。

また、入眠前の体温が高いほど入眠がスムーズになるので、冷え対策(温活)がそのまま睡眠対策につながります。本稿では、冷え対策としておすすめの入浴法など、私自身が実際に行っている睡眠対策としてのルーティンをご紹介しています。

セロトニン分泌を促す「朝の日光浴」

起床して室外光を浴びると、(晴天でなくても室外光は室内光よりはるかに強いため)セロトニンの合成分泌(2500〜3000ルクスの照度の光が必要)が始まりますので、外が明るくなったら室外光浴をしています。

セロトニンは神経伝達物質の1つで、ドーパミン(喜び、快楽など)やノルアドレナリン(恐怖、驚きなど)といった他の神経伝達物質の情報をコントロールし、精神を安定させる働きがあります。

睡眠に関して言えば、セロトニンの働きは精神の安定化だけに留まりません。睡眠ホルモンであるメラトニン(深部体温を下げて入眠しやすくする)はセロトニンから作られますので、セロトニン合成・分泌刺激が大変重要であることは明らかです。

メラトニンには抗酸化作用もあり、身体の修復が行われる夜間に多く分泌させれば、老化の緩和も含め、活性酸素関連疾患(がん、心筋梗塞、糖尿病など)の予防につながります。更年期に交感神経系が優位になった影響で不眠を訴える方は少なくありませんが、女性ホルモンが低下するとセロトニン分泌も低下することがわかっています。

起床時刻を一定に、覚醒刺激は回避する

メラトニンの分泌は、起床してから14〜15時間後に始まります。そのため、睡眠障害改善の第一歩は起床時刻を一定にさせることから指導しており、私自身も実践しています。

「寝だめ」というのは当然できない(2日間寝続けた後に3日間起き続けることは不可能です)ので、起床後14〜15時間経ってからは覚醒してしまうような刺激は避けるようにしています。具体例を挙げると、パソコンの前に座らない、室内照明を明るくしない(50ルクス以下)などです。

おかげで飲酒(寝付きはよくなっても、レム睡眠を助長させ睡眠の質が低下する)しなくても一定の時刻には眠気が出るようになり、睡眠の質も向上しました。

「睡眠対策」としての「冷え対策」

睡眠中は、脳を含め身体を休ませるために代謝を低下させる必要があり、深部体温が1.5〜2℃ほど下がります。体温がスムーズに低下することでスムーズな入眠が得られますが、体温が低下するためには、深部の熱を末梢に逃がす必要があります。

この時、手足が冷えていると熱を逃がすことができません。また、就寝前の体温が高いほど体温の低下がスムーズになることもわかっています。こうした身体の仕組みからも、冷え対策=温活が睡眠対策に非常に重要であることは明らかです。

体温を上げるためにおすすめの入浴法

就寝前の体温を上げる方法としては「冷え対策入浴」がおすすめです。簡単にできるので、私はこの入浴法を取り入れており、就寝時間の1時間くらい前に39℃のお湯に30分浸かることにしています。

40℃以下の入浴は副交感神経を優位にしますから、リラックスできて体温もしっかり上昇します。上がったらできるだけ早く乾かして床につくようにしています。

睡眠障害の専門家は、入浴後には「クールダウンが必要」と言いますが、これは湯の温度が40℃を超えているためです。これでは交感神経にスイッチしてしまい、のぼせて発汗し、覚醒してしまうでしょう。湯冷めもしやすくなるので、私としては入眠しやすくなるとは考えていません。

一方、前述の通り40℃以下の湯温なら副交感神経が優位になりますから、のぼせずに発汗も少なく、湯冷めもしにくくなります。また、42℃の湯温では5分後に血圧が上がることがわかっており、ヒートショックを起こしかねません。40℃以下であればヒートショックのリスクも抑えられます。

さらに、身体修復タンパク質である「ヒートショックプロテイン(HSP:Heat Shock Protein)」は、体温より2℃高い状況で最も合成されることもわかっており、この点もぬるま湯入浴がおすすめの理由の1つです。

以前、ヒートショックプロテインの専門家が42℃・5分間の入浴を推奨していました。この入浴法でもヒートショックプロテインはできますが、42℃・5分間よりも40℃・20分間の入浴の方がより多くのヒートショックプロテインを作ることができ、しかも2日後になっても高水準である(日持ちする)ことがわかっています。

その他の冷え対策ももちろん有効ですから、試していただく価値はあると思います。昨年末に「毎日の冷えとり漢方(河出書房新社)」という拙著を出しましたので、冷えにお悩みの方には是非こちらの内容も参考にしていただければと存じます。

ショートスリーパーの返上

睡眠時間の長短を示す言葉として、ショートスリーパーとロングスリーパーがありますね。私は元々ショートスリーパーでしたが、COVID-19のおかげで家にいる時間が多く取れるようになったため就寝時刻を早めて睡眠時間を取り、自律神経のバランスを整えています。

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