ビタミンCの一部は代謝されてシュウ酸になり、尿中に排泄されます。1960年代に仮説として、腎に排出されたシュウ酸はカルシウムと結合してシュウ酸カルシウム結石、しいては腎臓結石を発症する可能性があるという論文が出ました。実際にビタミンCの摂取で尿中のシュウ酸(シュウ酸カルシウムではない)が僅かであるが増加することが明らかになり、仮説「ビタミンCは腎結石のリスクを高める」は何の疑問も持たれずに世界中に広がり、それが常識になりました。
ビタミンCは腎臓結石を作らない!

「ビタミンCを摂りすぎると腎臓結石や尿管結石になる」という誤った情報があります。実は、この情報を信じている医師や栄養士はとても多く、これが新しい問題を引き起こしています。そう、高濃度ビタミンC点滴療法は腎臓結石を起こすのではないかという心配です。結論を先に言いましょう。ビタミンCは腎臓結石を起こすどころか、むしろリスクを減らします。
1960年代の誤った仮説が広がる
ところが、その後に多くの臨床論文で、実際にはビタミンCを摂取しても腎結石は増えなかったと発表されたにも関わらず、既に広まってしまった誤った情報を消すことができなかったのです。これがいまだ「ビタミンCは腎結石のリスクを高める」が認知され続けている理由です。
ハーバード大学がビタミンCを否定
1999年にハーバード大学医学部内科の研究者らは、尿管結石の既往のない85,557人の女性を14年間観察し、尿管結石の発症とビタミンCを含む栄養素の摂取について検討しています。その結果、ビタミンCの摂取は尿管結石の発症に全く関与せず、尿管結石の予防にビタミンCを制限することは全く意味がないと結論しています。
ビタミンCは尿管結石を予防する
そもそもビタミンCの代謝産物の一部であるシュウ酸が尿中に増えることがきっかけで起きた論争の過ちである。尿中のカルシウムはむしろビタミンCと結合し、シュウ酸と結合するカルシウムの量は非常に少ない。すなわち、ビタミンC自身が尿管結石の元になるシュウ酸とカルシウムの結合を阻止しているのです。
視点を変えてみましょう。シュウ酸塩は、食事に含まれる多くの食品によって発生します。主なものに、ホウレンソウ100gあたりのシュウ酸塩含有量は300~600 mg、茶とコーヒーは、多くの人の食事における最大のシュウ酸塩摂取源で、1日の最大摂取量は150~300 mgと考えられています。これは、ビタミンCを1日1,000 mg摂った場合に発生すると推定される量よりかなり多いのです。ビタミンCを腎結石の悪玉栄養素とするのはこれっきりにしたいものです。
さまざまな腎臓結石
腎臓結石には、以下の4種類がよく知られています。ビタミンCはシュウ酸結石を含むほとんど全ての結石の生成を予防します。
- <リン酸カルシウム結石> よく見られる結石ですが、ビタミンCによって酸性化された尿中で容易に溶けます。
- <シュウ酸カルシウム結石> よく見られる結石ですが、前述のようにビタミンCはシュウ酸とカルシウムの結合を抑制します。
- <リン酸アンモニウムマグネシウム結石> それほど多くは見られず、感染症の後に現れることが多い。これは、ビタミンCによって酸性化された尿中で溶けます。
- <尿酸結石> プリン体の代謝異常によって生じる。ビタミンCは尿酸の生成を減らして、尿酸結石を予防します。
高濃度ビタミンC点滴療法と腎臓結石
それでは高濃度ビタミンC点滴療法ではどうなのでしょう。サプリメントと違い、大量のビタミンCを直接血管に投与するので、大量のシュウ酸の生成、しいては腎臓結石を作ってしまうのではないかと懸念します。この疑問に結論を出したのが高濃度ビタミンC点滴療法の臨床試験を指揮しているカナダのマギル大学のホッファー教授<写真>の研究グループです。ホッファー教授も高濃度ビタミンC点滴とシュウ酸のデータについてはっきりと結論を出したいと考えたのでした。彼らは100gのビタミンC点滴後6時間の尿を集めてシュウ酸を測定したところ、僅か80mgのシュウ酸しか検出しませんでした。そこで、高濃度ビタミンC点滴療法におけるシュウ酸の排泄は僅かであり、少なくとも腎機能が正常である限り、尿管結石はや腎結石は起きにくいと結論したのです。

<写真:ジョン・ホッファー教授>
ビタミンCが腎臓結石の発生リスクを2倍?-米国医師会雑誌
ところが、2013年2月の米国医師会雑誌にビタミンCが腎臓結石の発生リスクを2倍にするという論文が掲載されました。この研究は、スウェーデン人男性をサプリメントも摂っていない22,448人と、ビタミンCのサプリメントを摂っている907人の2つのグループに分け11年間追跡したものでした。その結果、対照の腎臓結石の発症率が10万人あたり毎年163人に対し、ビタミンCのサプリメントを摂っているグループは310人と倍近く増えていました。
この論文に対し、オーソモレキュラー医学ニュースを始め、多くの反論がネット上を賑わしました。まず、腎臓結石の種類が不明でビタミンCが関わるシュウ酸カルシウム結石であるかを確認していない等、多くの不完全な研究方法について指摘されています。
いずれにせよ、この論文でさえ腎臓結石が613人に1人(0.16%)発症するところを、ビタミンCの摂取で1.9人(0.31%)と微々たる増加である。米国でもスーパーで販売している一般薬と比較しても著しく低い。それでもこの論文が発表されたその翌日には製薬会社系の医療情報ネットニュースは軒並みトップニュースとして配信していました。医薬品の副作用こそ大きな問題であるのに、ビタミンCの微々たる、それも証明されていない腎臓結石にフォーカスすることが不自然に思えます。
マグネシウム欠乏と腎臓結石
マグネシウムは、腎臓結石の形成を予防する上で重要な役割を担います。たくさんあるマグネシウムの仕事の一つは、カルシウムを溶けた状態に保つことにより、結晶状に凝固するのを防ぐことです。脱水症になった場合でも、十分なマグネシウムがあれば、カルシウムは溶けたままとなります。マグネシウムは、腎臓結石の極めて重要な治療法となる。カルシウムの溶解を助けるのに十分なマグネシウムが体内にないと、様々な形態の石灰化に至ることになるのです。これは、結石、筋けいれん、結合組織炎、線維筋痛、アテローム性動脈硬化(動脈の石灰化の場合)につながります。
シュウ酸カルシウム結石は、マグネシウムが多く含まれている食品(ソバ、青野菜、豆類、ナッツ類)もしくはマグネシウムのサプリメントによって300~400 mg/日の十分な量のマグネシウムを摂れば、効果的に予防できます。酸化マグネシウムはわずか5%しか吸収されず、下剤としての効果もあるので奨められません。クエン酸マグネシウム(Magnesium Citrate) が安価で吸収も良いでしょう。
おわりに
高濃度ビタミンC点滴療法は、米国、カナダ、デンマーク、日本などで様々ながんの臨床試験が行われています。しかし、日本においては腫瘍専門医らからまだ十分に受け入れられていないのが現状です。中には患者に「そんなにビタミンCを注射したり飲んだりしたら尿管結石になってひどい目に会いますよ」と言って高濃度ビタミンC点滴療法をやめさせたケースもありました。読者諸氏はぜひ正しい知識をもち、安心してビタミンCの摂取や点滴を伝えて頂きたい。
参考文献
(1) Curhan GC et al. Intake of vitamins B6 and C and the risk of kidney stones in women. J Am Soc Nephrol. 1999;10(4):840-5
(2) Robitaille L et al. Oxalic acid excretion after intravenous ascorbic acid administration. Metabolism. 2009 Feb;58(2):263-9.
(3) Thomas LD et al. Ascorbic Acid supplements and kidney stone incidence among men: a prospective study. JAMA Intern Med. 2013 11;173(5):386-8.
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