幹細胞は全身の組織(骨髄、臓器、脂肪、筋肉など)に分布しています。幹細胞の数は新生児が最も多く、加齢と共に減少していきます<図1>。普段から幹細胞の数と機能の維持することが健康の維持に必須となります。
からだを再生修復する幹細胞を増やすライフスタイル

幹細胞とは自己増殖能と多分化能を有する細胞で、ノーベル賞を受賞した山中伸弥博士の人工多能性幹細胞(iPS細胞)がよく知られています。私たちの体内にも骨髄幹細胞や間葉系幹細胞と呼ばれる幹細胞が存在し、全身の組織の再生と修復に重要な働きをしています。
健康であれば幹細胞が正常に機能し、全身の臓器と組織の再生、組織の修復がうまく行われます。一方で栄養素の欠乏や多量の活性酸素が生成されるような体内環境であれば、組織の再生はうまくいかず、創傷の回復は遅れ、免疫力も低下、様々な疾病を引き起こします。最近の研究では、適切な栄養とライフスタイルの改善により幹細胞の機能が高まることが明らかにされています。
本稿では健康な幹細胞の機能を保つためのライフスタイル、必要な栄養素、そしてサプリメントについて解説します。
幹細胞は加齢と共に減少する

<図1>骨髄の年齢別幹細胞比率
慢性疾患で幹細胞数は減少し、機能が低下する
様々な疾病や病態で幹細胞数は減少し、機能が低下します。
たとえば血管内皮前駆細胞は骨髄にあり、血流中を循環し、血管の自己修復を促進し、血管新生を誘導しますが、アルツハイマー病では健常人と比べて循環血管内皮前駆細胞数が著しく低下しています<図2>(文献1)。同様の現象は心疾患や慢性炎症性疾患、さらには勃起不全でも見られることが報告されています(文献2)。

<図2>アルツハイマー病患者の循環(血管内皮前駆細胞数は減少)
また、脳卒中の急性期の回復は、循環血管内皮前駆細胞数が高いほど良好であることがわかっています。興味深いことに、うつ病の血管内皮前駆細胞数は健常人と比べると有意に低下していることです。これは健康な幹細胞を維持するのにメンタル面も重要であることを示しています。
誰でも幹細胞を増やすことができる
ライフスタイルの改善で幹細胞を増やすことができます。
(1)アクティブなライフスタイルと運動
身体的にアクティブなライフスタイルは血管内皮前駆細胞の減少を改善し、生物学的に若い血管内皮を形成します。3ヶ月のウォーキングと中等度の負荷運動で血管内皮前駆細胞を2.2倍に増加します(文献3)。
(2)ポジティブな感情
前述のようにうつ病では血管内皮前駆細胞が減少します。また、骨髄移植や幹細胞移植において、治療に悲観的な患者よりも楽天的な患者ほど移植後の健康度が高いことがわかっています。
(3)ファスティング(断食)
週1回の24時間ファスティングは幹細胞を増やすことが証明されています。また、肥満の改善だけでも血管内皮前駆細胞が有意に増加します。週1日の断食、あるいは1日12〜16時間の断食が推奨されます。
(4)幹細胞を増やす食習慣
低脂肪・低炭水化物の食事、野菜や繊維質の十分な摂取はホモシステインを減少させ、血管内皮前駆細胞を増加させます。睡眠前3時間に食物を口にしないこともポイントです。オーガニックコーヒーも幹細胞を増やすことがわかっています。一方、多量のスナック、糖質過多、精製小麦、人工甘味料など遷延性炎症を加速する食材は幹細胞を減らす可能性があります。
(5)良質な睡眠
7時間の睡眠と比べて5時間の睡眠は幹細胞数が減少すると言われています。
(6)禁煙
喫煙は循環幹細胞数を減少させます<図3>(文献4)。4週間の禁煙で末梢血循環幹細胞が増加回復し、喫煙を再開すると再び減少します。

<図3>喫煙と禁煙における循環血管内皮前駆細胞の変化
幹細胞を増やすサプリメント
これまでに幹細胞を増やす栄養素として明らかになっているのは、ビタミンC、アルファリポ酸、ビタミンD、ブドウ種子エキス、マグネシウム、クエルセチン、セレン、ブルーベリー、ザクロエキス、緑茶エキス、クルクミン、レスベラトロール、スピルリナなどです。
本誌でも度々紹介したニール・リオルダン博士は幹細胞の研究者として世界的に有名です<写真1>。彼は俳優のメル・ギブソンの高齢の父親を幹細胞療法で奇跡的に復活させたことでも知られています。

<写真1>ニール・リオルダン博士から最新著書を贈呈される筆者
リオルダン博士はダラス市に幹細胞の研究所と会社を、そして中米パナマ市にクリニックを所有し、脊髄損傷や筋ディストロフィー症など様々な疾患の治療や臨床試験を行っています。博士は幹細胞療法をより効果的に補助するために、自身の幹細胞数を増やし、幹細胞機能を高めるサプリメントを開発し、日本でも販売されています。
おわりに
健常な幹細胞を保持できる栄養環境ではがん幹細胞を抑制すると言われています。例えば骨髄幹細胞はビタミンCが欠乏すると正常な分化が抑制されます。一方、骨髄白血病幹細胞はビタミンC欠乏で分化が促進、すなわち病状が進行します。ここに十分なビタミンCを与えることで分化が抑制されます。
健康な幹細胞を維持することががんの治療にプラスに働くことが期待されますが、これも今後の研究に期待したいものです。
<参考文献>
(1) Lee et al. Reduced circulating angiogenic cells in Alzheimer’s disease. Neurology. 2009;26:1858-63.
(2) Hill et al. Circulating endothelial progenitor cells, vascular function, and cardiovascular risk. N Engl J Med. 2003;13:593-600
(3) Hoetzer GL et al: Aging, exercise, and endothelial progenitor cell clonogenic and migratory capacity in men. J Appl Physiol 2007;102:847-852.
(4) Kondo et al. Smoking cessation rapidly increases circulating progenitor cells in peripheral blood in chronic smokers. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2004;24:1442-7
柳澤 厚生 (ヤナギサワ アツオ)先生の関連動画
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